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【3】本場のニンジャコスチューム。
「気になるのはお前のそれだな」
「それ?」
「一応俺たちは隠密のプロだ。俺たちに見えないところで坊や花見咲のボンボンを付けて回れたと言うのはどうも奇妙だ」
「……本場さながらのこのニンジャコスチュームのお陰では?」
「それは全然本場じゃねぇぞ。強化用の鉄も何も入ってねぇだろが。刺されたら簡単に貫かれんぞ」
ひぃーっ!?つ、貫かれる……。そして鉄なんて編み込まれてんの!?椿鬼くんが何気なく着てるその本場のニンジャ・スーツに組み込まれてるの!?
「あと学校じゃぁ制服だろうが」
「あー、確かに?」
「考えられる可能性としては……お前が頭隠の忍の一員で、任務を疎かにしてロマンス鑑賞に走り、やつらの商売仇のうちの坊まで付け回し始めたがために、裏切り者として粛清対象になった」
「ひぇ――――――っ!?コスプレはしたけど私そんなのに入った覚えないけど……!?まさかこのコスプレ……材料の布を買った時点で既に頭隠しに勝手に入らされる特典が……っ」
「もしそうだったらたいしたやつらだな」
椿鬼くんがそうクツクツと嗤う。
むぅー、何かムカつくんですけどぉ――――。
「だが……どうみてもお前は素人のただのコスプレイヤーだ。だからその線は消えた」
ふぐぅ――――――っ!どうせ私はマンガジャンピングもできない素人ニンジャ・コスプレイヤーですよ~~っ!
「すると何か他に……」
「あるってこと……」
実家……まさか実家……?いやいやまさかそんなそんな……っ!?
「私が身に付けてしまった……プロも認める壁技術のせい……?」
「何だ壁技術って」
「いかなる時でも推しを愛でるため、壁になりきる技術。オタクの技……!」
「……ふむ……分からなくもない」
「そうよねぇ。オタク外のひとにはなかなか理解されないのよ~~って……、え、分からなくもないの……!?」
「あぁ……一度会議のために外で全員集合かけたら……ニンジャ・オタク・コスプレイヤーが混じっていた……。く……っ、どこから湧いて出た……!!」
がっくしと項垂れる椿鬼くん。マジか……。すげぇな、ほんまもんのニンジャにしれっと混じるだなんて……!私も……まだまだね。
「それにお前は……昔から……」
「ん?」
昔から……?
「いや、今はいい」
「……何か気になるんだけど。あ……そうだ、そろそろ家に帰らなきゃ。門限あるのよ、門限。一秒遅れただけで閉め出されんの。なかなかにヤバい家よ。因みに家の時計は全て3分進んでいるの。せめて時間くらいは世間に合わせろって感じ」
「あん?返すわけねぇだろ」
「……え?」
「さっき言ったことを忘れたか?」
ニヤリと嗤う椿鬼くんが、不意に顔を近付けて顎くいキメてくる~~っ!?
胸がドキドキするのは気のせい?でも多分よく見聞きするのとは違う方……!そう、違う方~~っ!
うぐ……しかしさっきって……、まさか。
「お前は俺と結婚することが決まってる」
「いつ決まったのよ!?さっき!?さっきだとしても何でそんなことに……っ」
「良かったな。俺は氷隠の忍の長。カミカクシも長の嫁に手ぇ出すほどバカじゃねぇよ。それをやれば本当に忍同士の殺し合いだからなぁ」
やっぱりこいつ何か喜んでない!?忍同士の大戦(※当社比)もやぶさかじゃないとか思ってない!?まさか性悪うぅぅっ!?
「ち……っ。法改正されてなければすぐに籍入れられたのにな――――」
「いや、されてなくても無理でしょ。私たち高2!いってても17歳じゃないの」
ほんと実家は……。青少年夜中に外に出しちゃダメなの知らんのか。いや……知ってても敷地内だからと主張するのだけれど。
「あー……、俺19歳だけど」
「はいぃぃぃっ!?あ……まさか、留年……?」
あんな地味系男子のなりで実は留年……!?まぁ本体がこっちだもんねぇ。
「お前何か失礼なこと考えてねぇか?」
「し……失礼……?」
「俺は元々中卒だし……坊のボディーガードを兼ねて通わされてるだけだっつの」
「あ……ボディーガードで……」
忍ってボディーガードのためにそこまでやるのか。
「……おやっさんが高校くらい出とけっつって強引に入学手続き取りやがった」
……そしてまさかのおやっさんからの気配りぃっ!!
「何か……尊いわね」
「は?よく分かんねぇ」
「沼にはまれば分かるわよ。坊さんと瑠夏さまは尊いわ」
「沼抜けくらいできるが」
何それ……!底なし沼対策もバッチリってこと!?
しかしこれは抜けては欲しくない底なし沼――――――っ!てか抜けたくな――――――いっ!!
「取り敢えず……服は適当に貸すから。夕飯になったら呼ぶ」
「……あぁ……うん……。ついでにコンセント借りていい?ケータイ充電したいのだけど」
「……そこ」
「ありがと」
ニンジャ・コスチュームは名護り惜しいが……。コンセントをお借りして……充電、充電っと。充電コード、持ってきておいて正解だったわね。
「あ、お前の家には知らせを入れておいたほうがいいか」
「いいって。別に私が帰らなくても何も言わないから」
むしろ閉め出して放ったらかしだもの。
まぁ……見かねて中に入れてくれたお手伝いさんもいたけど……いつの間にかそのお手伝いさんはいなくなっていた。そして私を中に招き入れるひともいない。明日は我が身と言うことだ。
「ふぅん……?」
「それじゃぁその、椿鬼……お世話になります」
「……呼び捨てになったな。年上だっつーカミングアウトした途端」
ふふっと嗤う。何か企んでるのかしら、こいつ。
「何と言うか……その、ちょっとムカつくから!」
その含み笑いとか……!しれっと年上だったし……その年上の余裕が……何かモヤモヤするんだもの。
「反抗期かよ」
「年相応です!」
「ほら、早く行ってこい。冬氷」
……私の、名前。
「うん」
でもその年上の余裕が……少しだけ心地よかったりもするのは……何でだろう。
※※※
「長の嫁だ」
「わぁー、長の嫁?」
「すげぇほんとに嫁なんだー」
「そうそうー、長もやるよねぇ」
いや、正確にはまだ籍は入れてないのだが、周りがそう言うムードになっているぅっ!!?
シャワーを浴びて、借りた浴衣で居間に戻れば、何かたくさんのお兄さんたちに囲まれてしまった。
――――――しかもその中に。
「あ、あの時のお兄さん」
「あの時?どこかで会ったかな?」
「どこかって、さっき塀の外で!ナイフ突き付けてきた相方さんと頭隠しに吹き出してたじゃない」
「えー、何で分かったの?しかも俺と区別できたとは」
気が付かないと踏んでの反応だったのかしら。
「目が同じじゃない。まぁ相方さんとも似てはいるんだけど」
今は私服だけど、このお兄さんはナイフ突き付けてきたお兄さんの相方さんだ。
あ……そう言えば、目……?あのナイフ突き付けてきたお兄さんの目は似てるんだけど……、でも見たのはもっと前のような……。
「わ、すご。さすがは長の嫁~~」
「……!もうみんなすっかりその気じゃない」
むしろ広めたのはこのお兄さんでは……?
「そう言えば、相方さんは?ナイフ突き付けてきたお兄さんの方」
「あいつはー……ん、任務でまた出てるよ」
「そうなの?」
素顔を見損ねてしまった。もう一度見れば思い出せそうなんだけど。
考え込んでいたその時。
「ちょっとアンタたち!群がってんじゃないわよ!」
「いきなり男どもに囲まれたら驚いちゃうじゃない!」
「冬氷ちゃんって言うんだって?かわいいわねぇ」
「それと!冬華!ナイフ突き付けたって何!?ちょっとこっち来い!!共同責任よ!」
そしてこちらに続いて来てくれたのは、女性陣。ま、まさか彼女たちは……!
「く……くのいち……!」
「そうよ~」
「よろしくね」
「セクハラされたら言うのよ~!くのいちの秘技お見舞いしてあげる」
ほ……ほんまもんやぁ……!
それに……。
「秘技……ですか?」
「はら、見たい?」
「じゃぁ誰か実験台になりなさいよ」
「いやだよ!」
「恐ぇわっ」
「何よいくじなしー」
和気藹々としたやり取りを見守りつつ、お兄さんーー冬華さんがお姉さんのひとりに尋問に連れていかれてしまったのだが……。
「冬氷ちゃんは気にしないでいいのよ~」
と、お姉さん。うーん、ここは初めましての場所だし……お姉さんの助言に従ったほうがいいかしら。
「おーい、お前ら早く席着けよ。せっかく作ったのに冷めるだろうが」
わわっ、椿鬼が戻ってきた!しかし……。
「椿鬼……!ん……?作った……?椿鬼が?」
「悪ぃかよ」
え、マジで……!?
テーブルの上には、たくさんの料理。
「私たちとね――――」
「そうそう」
と、くのいちのお姉さんたち。
「美味しそう」
「ならいい。とっとと食え」
口は悪いが……でも。学校以外で誰かと一緒に食事と言うのも久々だし……大勢で食事なんてのは、初めてかもしれない。あと冬華さんも無事に帰ってきたみたいで何よりかなぁ。
「あ……そう言えば……制服どうしよう」
夕食をつまみながら、ふと。
「んぁ?行くのか?」
「行くわよ、そりゃぁ」
「そうよ。アンタ何考えてんの!」
「学生生活なんて、その時にしか楽しめないんだから」
「ふぅん……」
お姉さんたちの言葉に、首を傾げる椿鬼。
「アンタ、おやっさんにちゃんと卒業しなって言われたの、忘れたわけ?」
「……いや……別に」
顔を背ける椿鬼。まぁ……パッと見クラスで楽しんでるようには思えないのよねぇ。
「大丈夫!私たちのクラスには、とっても尊いラブロマンスがあるから……!」
「あら何か楽しそう」
「アンタも冬氷ちゃんと楽しんで来なさいよ」
「いや、だけど坊の……」
「坊さんを見守りながら鑑賞しようよ。坊さんもラブロマンスの主要人物!」
「それはいいわね」
「まぁ、青春ねぇ」
「それはぜひとも鑑賞しないと……!統木に仕える忍として!」
「……えぇー……」
と言う椿鬼だが。
「任務はこなす……お前のこともあるし」
それってようこそ仲間にいらっしゃいして成功したってこと?
やっぱり仲間がいると心強いわよねぇ、
「……制服ならすぐに用意できる」
「そうなの?金持ち学校の特製オーダーメイドよ?」
「大体のサイズが合えばいいだろ?姉さんたちが作ったけど年齢的に無理があった制服が残して……」
へ?年齢的にって……。
「コラァァァッ!!誰が年齢的に無理だってぇっ!?」
「いいじゃない!ボンキュッボンな美人お姉さんたちよ!?」
「あ、でもちょっと少年少女には刺激が強いかなぁ……?」
刺激ってどういう……。しかし、お姉さんたちのプロポーションはすごかった。
何あの魅惑のボディ!羨ましい……!!
そしてそのプロポーションのお姉さんたちのオーダーメイド制服……ちょっと不安を覚えつつも……。
「あ、でも冬氷ちゃんに着てもらうなら大丈夫よ~~」
「あ、ありがとうございます……!」
制服は実家に置いてきちゃったけど……何とかなりそう。背負ってたリュックは学校用だから……筆記用具の心配はないし……教科書は全部デジタルだから持ち歩くことはないのよね。
そしてその夜はお姉さんたちのお部屋に正体されて寝て……翌朝。
昨晩の不安が現実のものとなったのだ。
「む……胸元……」
胸元スカスカ!胸元がスカスカぁっ!?
「一応忍用に強化素材を編み込んであるの!安心安全よ!」
お姉さんたちは笑顔だが……何だか胸元が……心許ないのぉっ!!
「おい、そろそろ行くぞ」
そう言って現れたのはいつもの……地味男子バージョンの椿鬼。
「その格好でその口調は何だか違和感があるんだけど……」
「忍なんて変装してなんぼだろ」
「顔と目そのままだけど」
「え、冬氷ちゃん、そう見えるの?」
はて、お姉さんのその言葉の意味は一体……?
「それはお前だけだ。坊は知ってるからまだしもな」
「その、どういうこと?」
よく分からないのだが……?
「俺は忍の術で、俺本人だって悟られないように見せてんだ。もちろん味方には判別できるようにしてるが」
「え……」
まさか昨日の頭隠しさんたちが椿鬼の顔を見ておののいていたのは……。
「でも普通に見えるわよ?」
「それ、頭隠どもに悟られんなよ……?拐われんぞ」
「……え、何故!?」
「お前……忍の術が効いてねぇんだよ」
「冬氷ちゃん、そうなの!?」
「まぁ忍としては恩恵にも脅威にもなるわよね」
と、お姉さんたち。
「大丈夫、大丈夫。私たちもこっそりついて行くからね~~」
と、言ってくれるお姉さんたち。
それなら……安心なのだけど。
私は一体何故生命を狙われるのだろう……?
実家……いやいや、何を考えてるんだろう。
いくらなんでも、それはないですように。
――――――――そして椿鬼と共に登校してみればだ。
「証拠は上がっているんだ……!海守瑠夏!」
え……?明らかにお金持ち校の趣をはらむ、教室の両開きの扉をくぐった途端、一体どういう状況よ、これ。
まさかテンプレ!?テンプレの糾弾イベントが始まったぁ~~っ!?
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