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【4】魅惑の学園ラブロマンス。
「証拠は上がっているんだ……!海守瑠夏!」
え……クラスルームの扉をくぐった途端、一体どういう状況よ、これ。
※なお、扉は両開きのため授業中以外は開いております。
「いきなり……何のことでしょう。朝来さん」
その私的クラスルームラブロマンスヒーロー朝来くんの前に悠然と立つのは瑠夏さま!みんなの憧れのご令嬢、私的にライバル令嬢だけども隠されたヒロイン!!
そして陽咲ちゃんはと言えば、2人のそばであたふたしている!そこはテンプレの抱き寄せじゃないのね朝来くん!
でも陽咲ちゃんのかわいい仕草が見られて私は幸せよーっ!!
「ねぇ、これ今どういう状況よ。ヒョウカちゃん」
私はクラスメイトのリケジョ・ヒョウカちゃんを捕まえて突撃した。
「冬氷ちゃん、ようやっと来たのね。てかアンタ……何かおっぱい余ってない?」
「おっぱいは余ってないわよ。余ってたら私が欲しいくらいよ!むしろちょうだい?くれない?この余ったおっぱい生地のために……!!」
んもぅ、ヒョウカちゃんのDカップが羨ましいっ!!
「あげられるものならあげたいのだけど……豊胸手術の方がいいと思うわ」
「それは最終手段でしょ~~がっ」
まぁ、前座はこれくらいにして。
「それで、どうしたの?この状況」
「うん?これはいわゆる、糾弾イベント。断罪とまではいかないまでも、ラブロマンスワールドに於いては常々繰り返されるテンプレイベントよ」
やっぱりぃぃぃっ!!
「ことの発端は昨日、陽咲ちゃんの下校。彼女は電車通勤だから、その下校中、暴漢に襲われかけたの」
「なん……っ、何ですって!?」
そんなことがありながらも、今日も登校だなんて……っ。やはり特待生だからこその、責任感だろうか……。あぐ……っ。せめて当分の送り迎えはしてよね朝来くん……!!
「あ、そうだそれならケーサツには?」
アニメやマンガを見ていて常々思うのだ。お前らそれ、普通にケーサツ案件じゃね?……と。
「それなんだけど……朝来くんが、どうせ瑠夏さまが実家の権力で黙らすからって」
「瑠夏さまはそんなことしないでしょうよ。てかできんのそんなこと」
「ふふふ……それは知られざる日本社会の闇。冬氷ちゃんにはまだ早いわ」
そ……そうか……そうなのか。昨日の日本社会の闇の敷地内で夜を明かしてしまったんだが。
これぶっちゃけたらダメよね?多分……椿鬼にまたトンデモな要求をされそうぅぅっ!
うぐ、私の秘密は、今はヒョウカちゃんには明かせない……!
「でも、それで何で瑠夏さまが糾弾されないといけないの?」
「それは……」
ヒョウカちゃんが視線を糾弾ステージに戻す。
これから……明かされると言うこと……!
「いろいろと聞いているぞ。お前、他の令嬢を使って陽咲を虐めているそうじゃないか……!」
はい――――――――っ!?まさに悪役令嬢さながらだけどもちーがーうーっ!
瑠夏さまはそんなこと命じないわよ……!
「何のことか、さっぱり存じ上げませんが」
「はんっ、どうだか。陽咲にいろいろな嫌がらせをしていることは掴んでいるし、犯人もお前に命じられたと吐いたぞ」
あぁー、陽咲ちゃんを囲んでやっかみかけてる子たちや悪口言ってる子かぁー。大体は朝来くんが駆け付けてるけどね。あと細かな嫌がらせとかも続いてるみたい。
それに気が付いたところは褒めてあげなくもないけれど……。
でもあの子たち、瑠夏さまの取り巻きでもないけど。
むしろ瑠夏さまならそう言ったことをしないよう、自身の取り巻きを牽制するわよね。その意味での日々の苦言でもあるのだ。
「は……犯人て……それはどなたのことですの?」
ほら、瑠夏さまも寝耳に水。
「白々しい……!」
うぐ~~!朝来くんも譲らないわね。ここはヒーロー朝来くんが残念ヒーロー化するのは食い止めたいところでも私にその術は皆無!!しかしそんな時、響くのは天使の声。
「その……朝来くん。証拠もないのにそんなこと……っ」
涙ぐむ陽咲ちゃん。
そうよね、そうなのよ。陽咲ちゃんはどこまでも優しい天使なのぉっ!これならきっと朝来くんの暴走も止められるはずぅっ!!
「だが、瑠夏が全ての黒幕ととらえれば説明もつく!陽咲に嫌がらせをしていたやつらも瑠夏の名前を出した!」
「言いがかりです。その方たちは自分たちのやったことを棚上げして、私のせいにすればいいと安易な考えを掲げただけではありませんの?」
そうだそうだ!瑠夏さまのせいにするなんて間違ってるぅっ!!
瑠夏さまは……とても尊いお方なの!表では深窓の令嬢然としているのに影で沈痛な表情になっちゃう!そしてそんな場面に出くわした坊さんとの今後が楽しみすぎるわ萌ええぇぇ――――――――っ!!!
「ああ言えばこう言う」
「あなたこそ」
ひぇっ。萌え談義をかましてるうちに当の2人はバッチバチ!!
「あの……」
そしてこの緊張の走る場に現れた救世主!待ってましたぁっ!真打ち!
「さすがに確たる証拠もないのに、瑠夏さんに失礼じゃないですか」
そう、現れたのはもちろん……っ。
「ぼ……」
「さすがは統木璃音くん。やるわね。それでこそ隠されたもうひとりのヒーローだわ」
「そうよねぇそうよねぇ……!」
あっぶねっ!ヒョウカちゃんの隣で『坊さん』呼びしかけた~~!せっかく坊さんが隠してるのに水の泡にするところ……いや、違うな。ヒョウカちゃんなら確実に新たな萌えポイントに変換する!トンデモねぇ妄想がまた生まれるぅっ!!
――――――坊さんにバレたら消されないわよね!?
ふぐぅ、そん時は椿鬼たちだけが頼りぃっ!!
あ……今は緊迫の糾弾イベントの行方を見守る時。危うく妄想にのめり込むところだったわ!!
「……えと、君は誰だろうか」
……。
朝来くぅんっ!坊さんのこと知らなかった!?いや、坊さん的には目立たない作戦が成功してるという確たる証拠……!しかし悲しいかな、それがこの糾弾イベントに於いては痛点となってしまったぁっ!!
「あの……朝来くん、同じクラスの統木くんです」
はぅあーっ!そして陽咲ちゃんさすが……!陽咲ちゃんはね、ちゃんとクラスのみんなの顔と名前を覚えてるのよ。
私の名前まで覚えて呼んでくれた日にゃぁ……昇天しかけたぁ――――――。
「統木……?」
朝来くんが呟く。
そう言えば統木くんのこと、朝来くんは知らなかったようだけど、家名は心当たりあるのかしら……?2人とも、実家がそれぞれ裏と表のドン的な存在よね。
「悪いが、これはぼくと彼女の問題だ!関係のない君は黙っていてくれないか!」
いやいや、関係あるぅっ!大いに関係あるわよ!だって統木くんは……っ。
私は緊張した面持ちでヒョウカちゃんを見やる。
「ふん……それは2組のカポーを忍び追いかけ見守ってきた、私たちロマンス鑑賞同好会だけが知る事実……」
悲しげに告げるヒョウカちゃん。うぅ……っ、同好会会員私とヒョウカちゃんだけだけど!あ、でも今日からは椿鬼も入るのか……?
そう言えば一緒に来た椿鬼は……と、思ったその時だった。
「ほ――――――お?」
やけに低い思わず背筋がビクンとする声が響く。そして私とヒョウカちゃんの間にいつの間にか立っていた椿鬼は……そっと眼鏡を外してヒョウカちゃんを……鋭い視線で捉える……!
「任務を疎かにしてロマンス鑑賞に走り、俺らのの商売仇の頭隠を抱える花見咲のボンボンまで付け回し始めたのは……お前か……?氷華」
え、椿鬼……氷華ちゃんに何を……っ!?
「げぇっ、長ぁっ!?何で!?」
ヒョウカちゃん、椿鬼のことを長って……!?
「今俺は……てめぇを裏切り者として粛清対象にしようかなと迷っている」
「ひいぃぃっ!?ヤメテぇっ!そんなことされたら家族ともども共倒れぇっ!裏切ってないですサボってないです……!坊のことも見守ってるし……」
坊さんを坊と呼ぶなら確実だぁ、こりゃぁ。
「それに、何より敵を知るのも大事ですから……!」
「てめぇの任務はそこじゃねぇだろ。坊のクラスメイトとして影ながら護衛するこったろぉがぁ?つまり任務外!完全に趣味に呆けてんだろぉがっ」
「そんなことないもんんんっ!ちゃんと任務もやってるもんんんっ!てか長こそ何なんですか!私の友だちの前で忍のことを……あ、まさか冬氷ちゃんを人質にした拷問をお考えで……っ」
いや、ちょ……人質とか拷問とか恐い!何それその展開!
「あぁ、それもてめぇへの罰ならいいなぁ。採用候補に挙げとくわ」
ぴぇーっ!?アンタはアンタで何乗ってるの……!
「長……っ、あんまりだ!坊にチクったるぅっ」
「その前に……シメる」
ひぃっ!実力行使~~っ!てかやっぱりアンタ正確悪いでしょ――――――っ!
「まぁそれは半分冗談だ」
しかし次の瞬間しれっと表情と眼鏡を元に戻した。
「半分本気だったんですか長」
「学校ではそう呼ぶな」
「はーい。でも、それなら何で冬氷ちゃんを巻き込んだんです?あ、冬氷ちゃん、何のことだか全然分からないよねー。こんな口の悪い性格絶対悪い長の登場に驚いたよねー」
「いや……そう言うわけでも……」
ないのだが、身内にも性格悪い疑い確定させられてる――――――!
「あぁ、てめぇは昨日屋敷にいなかったからな」
「まぁ私は家族と別途暮らしてますからね。坊の護衛も学校で、になりますし。登下校は長たちもいるので強制ではありませんし。行くとしてもお呼びだしがあった時くらいですしね」
それで昨夜はヒョウカちゃんに会わなかったのか。そして強制ではないから昨日は陽咲ちゃんと朝来くんの登下校ラブロマンス鑑賞に行っていたんだわ。絶対そう。
「じゃ、伝えとくけど……冬氷は俺の嫁にすることにした」
くいっと私の腰を引き寄せてくる椿鬼ちょっとぉっ!?あの、ここ教室の中!教室の隅とはいえ、みんな糾弾イベントに夢中だとはいえそんなことされたら目立つでしょうがぁっ!!
それとも忍の便利な術でも使ってるの……!?
そして椿鬼の言葉を聞いたヒョウカちゃんは……。
「えぇぇぇぇ――――――――――っ!!?」
絶叫した。そして気が付けば、メインヒーローヒロインちゃんたちの視線も、クラスメイトたちの視線もこちらに突き刺さってるぅっ!?
椿鬼は既に私の腰から手を放していたが……。
ど……どうしよう、この状況。
壁に徹するはずが……壁に相応しくないやらかしで糾弾イベントぶち壊しちゃったよコレえぇぇっ!!
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