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【7】鬼も頭が上がらない。
「椿鬼……!学校サボって一体何してたんだよ……!」
颯爽と茶室の中に入った坊さんは茶室の扉を閉め、こちらにやって来る。
さっと上座を譲る椿鬼に坊さんへの敬愛を感じてキュンとしたのだけど……。
――――――しかし問題はそこではない。
ヒョウカちゃんがふるふると震えながら坊さんからちょっと下がった位置に正座する。
「それに……何か今朝から御星さんまで一緒にいるからおかしいと思った……!」
私の苗字……覚えていてくれたのだろうか。それともヒョウカちゃんに聞いたのかな?
そして椿鬼も坊さんをよく見てるけど、坊さんもまた椿鬼をよく見ているってことかも。
「お前どこまでしゃべったん?」
「ぎくぅっ」
さらには椿鬼の無機質な視線がヒョウカちゃんに突き刺さる。
坊さんからも視線を送られ、ヒョウカちゃんがもごもごと口を開く。
「そ……そのぉ……何故冬氷ちゃんが長と一緒にいるのかってこととか……でも長が教室に不在だったのは……その、情報収集としか聞いてなくて……えと……」
「ちょっと。、もうやめてあげなさいよ。ヒョウカちゃんが恐がってるじゃないの!」
全く男子2人寄ってたかって!坊さんは……ともかく。椿鬼にそう注意すれば……。
「わあぁぁぁぁ――――――――んっ!!冬氷ちゃあぁぁぁんっ!!」
ヒョウカちゃんが私の背中にぎゅうっと抱き着いてくるぅっ!あぁん、Dカップの感触が背中に突き刺さるぅっ!!でもここは友だちとして、ヒョウカちゃんを守る時……!そのDカッププレスをエネルギーに変えるのよ……!私!!
今だけ私の胸は……Eカップに進化する……!
「私の味方は冬氷ちゃんだけだよぉ~~。長も坊も2人して恐いよおぉぉ――――――!別に任務サボってたわけじゃないもん!!あぁ――――――っ!!明日霜華お兄ちゃんが実家に顔出すって!お母さん喜んでたけど私は恐怖だよぉぉぉっ!!霜華お兄ちゃんと顔合わせるの恐いよおぉぉ――――――――っ!!!」
「よしよーし、私がついてるから。泣かないで?」
確かヒョウカちゃんは5人家族だけど、お兄さん2人は仕事で留守にしていることが多いんだっけ。霜華お兄さんと言うのは……ヒョウカちゃんが前々から言ってた怒らすと恐い真ん中のお兄ちゃんの方……よね……?もうひとりはだいたい優しいって言ってたし。
そんなことを思い出しながら、背中のヒョウカちゃんに声をかけていれば、頭上に影がかかる。何だろうと見上げれば。
「てめぇ俺の前でいい度胸だな……?」
椿鬼が私の後ろのヒョウカちゃんを見下ろしていた。
あんた……気のせいかもだけど……瞳孔開いてないわよね……?
「ひやあぁぁぁぁぁ――――――――っ!?私詰んだ――――――――っ!!」
え、詰んだ!?どこら辺が!?
どうしようかこの状況!?
詰んだ時……詰んだ時の突破口は……そもそもどこがどう詰んでるのかも分からないぃぃっ!!選択授業の将棋講座受けとくんだったぁ~~っ!それならせめて……せめて将棋の詰みくらいは分かったかしら!?いややっぱり無理かも……!?
――――――しかしその時、思わぬ助け船が。
「椿鬼、ステイ!」
うおぉぉぉっ!?坊さん!?何その魔法の呪文……っ!!
「坊……っ」
椿鬼も渋々元の位置に戻る。すごい……普段は目立たず騒がず謙虚な優等生を通している坊さん……!じつはこの狂犬椿鬼をも華麗に扱いこなすとは……!まさに影のヒーローたる資質……!ヤバいこんな状況なのに妄想冷めやらない……!
元々、瑠夏さまと坊さんの方は私が担当することが多かったのよね。見守ってきた分だけ愛着深くなるぅ~~。、たまにヒョウカちゃんとばくりっこして私も陽咲ちゃんと朝来くんを見に行ったけどー!
「氷華も」
「ふえぇん、坊んんんっ!?」
あ、坊さんからDカッププレス禁止令が出てしまった……。
私の胸は……再び元に戻ってしまった。とは言え、ひとときだけでもEカップになれた喜びは果てしない……!ありがとう、ヒョウカちゃん!私にEカップの夢を見せてくれて……!ありがとうぅぅっ!!!
――――――一方で。
「氷華。坊の命だ……分かるな……?」
ゴゴゴゴゴ……ッ。
こんな状況で妙に笑顔な椿鬼の背後から謎の効果音が聞こえるぅ――――――っ!!
「ふぐぅ……っ!長ぁ、長めぇっ!坊のお言葉を逆手に取りやがってえぇぇっ!!私と冬氷ちゃんの友情を引き裂こうとする鬼畜ううぅっ!!」
悔しがりつつも、氷華ちゃんは私の隣にさっと座った。
まぁ椿鬼鬼畜説なら大賛成だけども。
「御星さんのこともそうだけど、今日1日何をしてたんだ?椿鬼」
坊さんの静かな問いに、椿鬼はボリボリと頭を掻く。
「それは――……だな」
「今日うちの車出しただろ」
「何でバレた……っ」
やっぱり車使ってた……!そして車で堂々カチコミかよこの男ぉっ!!そしてそれに何も疑問を持たない舎弟たちも……やっぱりお坊ちゃん。少年マンガのように電車とは言わないわ。あれ、電車だったかしら……むしろ徒歩?どちらにせよやつらには無理だわ……!でもとりま補習受けに行ったからいっか~~!
「オヤジからメッセージ来てた。お前がうちの車出したから、俺も車通学にする気になったのかって。でも昼間だったし、おかしいと思って氷華を問い詰めた」
あぁー……私が椿鬼のところに来ている間にヒョウカちゃんを捕まえたか――――。
「ち……っ、まさかのそこからバレるたぁ……っ」
「それで、何を企んでる。椿鬼」
「……何をと言われても……坊も知ってる通り、情報収集だ」
うっわ何その嘘臭いスマイル~~!
「本っ当にそれだけか?」
ひぇっ、坊さんからの圧。しかし影のヒーローと言う面では……めちゃくちゃ美味しいわね……!
「そうそう。ついでに証拠も拾ってきたが?いいのか聞かずに」
「それは……っ」
坊さんの圧が揺らぐ。ま、まさか……椿鬼、あんた……っ。
「海守瑠夏のこと、いいのか?坊。随分とお熱いようだが……俺たちは坊のためならお膳立てだってやってやる」
「お前……っ、何で知って……っ」
かあぁっと顔が赤くなる坊さん……ちょ、待ってこれ、萌える!めちゃ萌えなんだけどこれ!!
椿鬼が惚れた弱味に漬け込むがごとく坊さんから主導権取ろうとしてるけど……瑠夏さまとの恋の営みに反応しちゃう影のヒーロー萌え――――――――――っ!!!
「何て素晴らしいの……」
「冬氷ちゃんんんんっ!?何でここで萌えてるの!?」
え?ヒョウカちゃんには萌えの対象外……?まぁ往々にしてあることよね。ひとによって萌えポイントは違うものよ。それが時にシンクロした時、大いなる萌えの波が押し寄せ……るのは、話が長くなるので割愛するけどー。
うふふーうふふふふー!
「え……?その……椿鬼……御星さんは何で……(ごきょごにょ)」
坊さんが椿鬼の耳元に何か囁いてる?
「ふ……っ、若いな、坊」
ニヤリと微笑む椿鬼。え、分かるの?椿鬼も分かるの?まぁ……椿鬼も坊さん推しだから通じ合う部分があったのだろうか……?
「いや、よく分からないよ椿鬼。そもそも御星さんと婚約してるって何……!?」
あはははは――――――。何か成り行きで――――――。
「何だ、羨ましいのか坊?なら、坊の方も解決しなくちゃぁなぁ」
「……それは……っ」
「取って置きの情報、掴んで来たぜ。これであの嬢ちゃんは無罪だな」
「……椿鬼!」
坊さんの表情が輝くぅ――――――――っ!あぁ、坊さん……椿鬼に完全攻略されてしまったぁ~~!!!
「長……やっぱり恐ろしい男……っ」
ヒョウカちゃんが項垂れる。
「それで、情報ってのは……」
そうよ、それが本題だったわ!いろいろと脱線はしたけど!
「あぁ、あのお花畑を襲ったのは雉高のやつらだ。シメたら吐いた」
「シメたらって……んもぅ。それに雉高って……。また?」
あぁ、これ完全に河原の鬼事件について坊さんも知ってる流れだぁ――――――っ!!椿鬼も懲りずにやるわね。でも最終的には坊さんのためにもなるから……よね。
「そうそう。そんで、アイツらが誰に命じられたのか、吐いたぜ」
「それは、誰……っ!?」
坊さんがゴクリと唾を呑み込む。
もちろん瑠夏さまではないだろうけど……。
「あぁ……花見咲の蝶だよ」
花見咲の蝶とは……?やはり朝来くんの家と関係があるのかしら。しかしその言葉を聞いた坊さんも……ヒョウカちゃんも黙りこくってしまう。
だがしかし、さすがは影のヒーロー・坊さんが口を開く。
「それなら一筋縄ではいかないと思うけど、椿鬼」
「いいのいいの、坊は俺に任しときな」
そう言って坊さんの頭をぽふりとするさまは……まるで兄弟のようである。
妙に頼りになる感じがあるのよね。
「さて、今日はもう帰んぞ。対策なら万全だからな」
対策……?ニンジャ的な何かをしてるってこと?
「椿鬼がそう言うのなら、今日は帰ろう」
坊さんまで。
しかし椿鬼がここまでしてくれるとは。
「主従愛っていうの?それとも義兄弟?萌え~~」
「もう何と言うか、長に萌えられる冬氷ちゃんになら、うちの長、もらってやって欲しい」
「えっ!?」
ちょ、ヒョウカちゃん!?今のどういう意味なんだろう……?
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