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【8】蜘蛛の網にかかった蝶。
――――――翌日のことである。
ヒョウカちゃんと椿鬼とそして坊さんと、打ち合わせも兼ねて午前のティータイムを過ごした帰りのことである。
なにやら廊下が騒がしい……?
「あら、冬氷さん、ごきげんよう。あなたも行った方が良いのではなくて?」
「あ!真白さま、ごきげんよう!」
いきなりで驚いたけど……海と言えば海守、山と言えば陸守と呼ばれる陸守のお嬢さまでもある……真白さま……!
海守家とは一応それぞれライバル企業を抱えていると言うこともあり、瑠夏さまと同様、うちの学年でもトップに君臨するお嬢さま。学園一のお嬢さまは……1年生にいるのだけど、お2人だってものっそい深窓のご令嬢なのよね。
「でも……行った方が良いとは……一体何があったんですか?」
「何でも瑠夏さんが大変なことに巻き込まれているようですよ」
「瑠夏さまが!?」「瑠夏さんが!?」
あ、坊さんと声が被った。それに真白さまはくすりと微笑まれると……。
「あなたたちは本当に瑠夏さんがお好きねぇ。わたくしのことは気になさらなくてよろしくてよ。お行きになって」
「は、はい!では失礼いたします!」
素早く真白さまに礼をすると、私は坊さんたちと瑠夏さまがいらっしゃると思われる人だかりの中心へと急いだ……!
※※※
「もう我慢ならない!陽咲を階段から突き落とすだなんて!」
そう叫んでいたのは朝来くんだった。
はいぃっ!?陽咲ちゃんが……階段から突き落とされたぁ!?何そのヒロインちゃんに訪れるテンプレイベントはぁっ!!
そして陽咲ちゃん、突き落とされたって怪我は大丈夫なの!?
「朝来くん……!私は大丈夫ですし……!」
幸い陽咲ちゃんは無傷なようである。
「それに瑠夏さまだって一緒に落ちたんですよ!?」
え……、瑠夏さまも一緒に落ちたぁ……っ!?
朝来くんと陽咲ちゃんの正面にひとりでたつのは……瑠夏さまだ……。こんな時ですら、纏う空気はまさに深窓のお嬢さまだ。
「瑠夏さん……!」
しかしさすがにそれを聞いては。坊さんが真っ先に瑠夏さまに駆け寄る……!あぁ……っ、さすがは坊さん……!分かってる!!ここで瑠夏さまに寄り添えるのはやっぱり坊さんしかいないわよね!!
「怪我はありませんかっ!?」
「璃音さん……!わ……わたくしは……大丈夫です」
よかった……瑠夏さまも平気みたい!そして坊さん、瑠夏さまにまさかの名前呼びをっ!名前呼びをおぉぉっ!!何このやりとり尊すぎるぅっ!!!
「自分で陽咲を突き落としておいて……白々しい。どうせ、自分も被害者であると逃げ切るための口実だ」
いやいや待って朝来くん!ちょっとそれ残念ヒーロー化しつつある!あなたが残念ヒーロー化したら陽咲ちゃんはどうなるのよ~~っ!しかし軌道修正しようにも……学校でも首位に君臨する令息相手にどうしたら……。
「わたくしは、そのようなことはしておりません。する理由もありませんわ」
瑠夏さまが凛として告げる。あぁ、なんて麗しいの……っ。そしてそんな瑠夏さまにキリっと寄り添うもう1人の影のヒーロー・坊さん最高~~っ!
「だが……っ、お前はずっとぼくの許嫁と主張し、陽咲を虐めていたではないか……!」
「わたくしは虐めてなど……っ。それに……許嫁と言うのは……両家の間でそう言うような雰囲気になっていただけで……お父さまからは先日はっきりと自由恋愛推奨すると話がありましたから……」
え……っ。許嫁問題の真相は、何かそう言う雰囲気になってたから!?
いやしかし、それなのに瑠夏さまのお父さまはどうして急に自由恋愛推奨派になったのだろう……?
「もう……あなたへの気持ちなど、ございません」
もう……か。それが意味するところが分からないわけがない。何せずっと壁として見守ってきたのだから。
「だからなんだ!ぼくだってお前になんて興味はない!だが、陽咲に手を出したなら別だ……!!」
ぐは……っ!朝来くんは何と言うか……まさに物語の熱血ヒーロータイプなのだが……。女心分かってないテンプレだわ。
「あ、朝来くん、聞いてください!」
そしてここで声を上げる陽咲ちゃんは……やはり、尊い。あぁ、どんな時もこんな時も、やっぱりエンジェルなヒロインちゃんは尊い……っ!!
「その、やっぱりこんなのおかしいです!もやもやします……!それに私、落ちる前に瑠夏さまに呼び止められたんです!だけど……その時瑠夏さまも悲鳴を上げられていたんです。まるで誰かに、押されたように……」
な、なーんですってーっ!?ちょ……これ、完全にフラグじゃないいぃぃぃっ!!?
「わたくしも……背中を押されました」
「そんな……っ、それじゃぁ瑠夏さんも被害者じゃないか!」
瑠夏さまの証言に坊さんが声をあらげる。
「それも……君が誰かにやらせたんじゃないか……?瑠夏。そして君がよく一緒にいる統木くんのことも調べさせてもらったよ」
朝来くんの言葉に、坊さんが反応する。調べたって……まぁ花見咲だもの、できるんだろうけど。
つまり朝来くんも坊さんの実家のことを知ったってこと……?
「先日この学校に裏番と言う存在が生まれたそうだ」
情報早ぇな、回るのはんえぇな。昨日の今日よね。まさか舎弟たち効果だろうか……っ!?もう学校中に広まってる……!?
「君がその裏番だとすれば全て話が纏まる」
え……?
「は……?」
坊さんキョトンとしてる――――――っ!そりゃそうだ。裏番は坊さんではなくその忠犬椿鬼だもん~~っ!
あれ、そう言えば坊さんには裏番のこと言ってなかったかしら。
「そいつらを使って陽咲を襲ったんだ。先日の陽咲への襲撃未遂のこともある……!」
「いや、違うから……!!」
ついつい、大きな声を出してしまい、周囲の視線を総なめにしてしまう、壁にあるまじき行為……なのだが。
「その通りだ」
隣から聞こえた大人びた声に椿鬼を見上げれば。あれ、眼鏡外してる……。そして悠然と坊さんに向かって歩いていく椿鬼に、坊さんも目をぱちくりとさせてる……!
「そもそもそのお花畑を襲ったのは、雉高のやつらであり、この学校の生徒ではないぞ」
「雉高……だと?」
「上着を着ていると、一見ズボンじゃ見分けがつかねぇからなぁ」
うんうん、だから一瞬で生地の違いを悟る舎弟たちは実は優秀なのよ。
「そして雉高のやつらに指示した黒幕も既に掴んでいる。さらにこの茶番を企てた黒幕も……同じやつだ」
それってつまり……花見咲の蝶で間違いないってことよね!?
「誰なんだ、その黒幕とは……」
朝来くんが真剣な表情でこちらを見つめてくる。
「ほら、来た」
椿鬼の言葉と同時に甲高い声が響く。
「放しなさいよ!痛い……っ!この私を誰だと思っているの……!?」
スーツ姿の女性たちに取り押さえられながら連れられてきた少女と……何故か傍らには……舎弟たち。あの女性たちは……シークレットサービスか、執事かしら。このお金持ち校は、生徒のシークレットサービスや執事は事前に申請して審査をくぐれば学校内に生徒に付き従うことも可能なのだ。
そして連れられてきた少女の顔をみた朝来くんが叫ぶ。
「アゲハ!?おい、妹を放せ!」
朝来くんの言葉に、アゲハと呼ばれた……花見咲アゲハこと学園一のお嬢さまが顔をうるうると目を潤ませながら輝かせる。
「お兄さま、助けて!こいつら突然私を捕まえて……!この不良たちが犯人よ!!」
その言葉に朝来くんが駆け寄ろうとするが、彼のシークレットサービスと思われる青年がどこからともなく現れ制止する。
「おい、放せ多津真!妹がアイツらの手下に……!」
朝来くんが舎弟たちを指差すが……舎弟たちは首を傾げる。それもそのはず、多津真さんとやらの言葉でその理由が明らかになる。
「そう申されましても、あれは海守のシークレットサービスですから」
えぇっ!?てことは瑠夏さまの!?
じゃぁ何で舎弟たちは瑠夏さまのシークレットサービスと一緒に……?
「……っ、それこそが、瑠夏が全ての黒幕だと言うことを示している……!!」
朝来くんの言葉に……アゲハさんが一瞬ニヤリと唇の端を吊り上げたのを……見てしまった。え……ちょま……?まさか……。
花見咲の蝶とは、その名の通り……花見咲の、アゲハ蝶ーー花見咲アゲハだったのだ……っ!
「やれやれ、恋は盲目とはいいますが、目は覚ましていただかなくては、我々も仕事になりませんね」
そう告げながらシークレットサービスの女性たちの後ろから現れた人物に、目を見張った。
え……どうしてあなたが……そこに!?
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