最期の日

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私は、美大を出たわけでもなく、父の遺品にあったデッサンの本を見つけた時から描き始めた。 絵心は、決してあるとは言えない‥‥ ‥‥絵心のある人は尊敬するし憧れた。 幼い頃、デザイナーになりたいと思ったことがあった。 パリコレのような舞台で自分がデザインした服を着たモデルが歩いているイメージをして、 スケッチブックに、デザイン画を書いては色鉛筆で塗って喜んでいた‥‥‥。 描いては消しを続けて、歳月は過ぎ去った‥‥。 肖像画を描きながら、依頼者の人生物語を伺い、その人に合う香りや、天然石をセレクトする。 クチコミで、遺影にする肖像画の依頼が増えていった。 ご本人が直接、みえるときもあれば、写真を送って来られることもある。 あるご婦人にうかがったことがあって、「どうして遺影を肖像画にしようと考えたのですか?」 そのかたは、お子さんがいらしゃらないので、「自分に、もしものことがあったら、自分の遺影を決めておけば、 誰も困らないし、自分の気に入ったものであれば安心だ」 と話されていた。 人が亡くなると、家族や近親者は、心ここに在らず、、、遺影を考える余裕などなく、、、 いつ撮ったか分からない写真を、、、もしかして、寂しい顔した写真を選んでいるかもしれない、、、 その写真を遺影にされた日には、車の運転免許証の写真のように、写りが悪くても、変えられないし、変えてくれる人はいるのだろうか? そんな思いから、亡くなっても、自分で選んだ写真や、肖像画ならば、、、 言うことなしだと、、、私は、自分が亡くなったら、そうしたかった。 そう信頼できる人に頼んでおきたかったし、エンディングノートに記しておこうと考えたことが、少しずつ仕事になっていった。 決まり事なんてないのだから、自分が1番キラキラしていた日の写真を遺影にしたかった。 なぜ、そこまでこだわるのか、、、 それは、ある親族の通夜、葬儀の準備の際に、遺影を選ぶ家族の様子からだった。 気持ちが、家族といえども、皆、バタバタしていると、そのことに、集中していない。仕方ないとも思う。だが、、、 「これでいいよっ‼︎」 みたいな、、、投げやりな光景をみたことがあったからだ。 悲しすぎた、、、。 『若い時の笑顔の写真を、なぜ、選ばないんだ‼︎』 これぞ、その人だ‼︎ という写真を選んで欲しかった。 遺影が、、、その人の、その顔が、お別れの際に、どれだけ大事なものかを、考えて欲しかった、、、 地域ごとの慣習はあるかもしれない、、、その時の、背景はあるかもしれない、、、 でも、自分だったら、、、 亡くなってまでも、心地よくないことは、遠慮したい、、、その気持ちが拭えなかった、、、 心穏やかに、安心したい、、、。 そして、、、肖像画と共に、それぞれに備えたかった天然石‥‥‥‥ ‥‥沢山の、天然石が、それぞれの人生に寄り添い続け、亡くなったこれからも、寄り添い続ける‥‥。
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