181人が本棚に入れています
本棚に追加
リリーに説得され、ハーティング伯爵家で開かれるパーティーに参加することになって、早くも一週間。
パーティーへの日付をカウントしては、私は不安に駆られる日々を過ごしていた。
「アルス嬢、なにをそんな恐れているんだよ」
「……あ、ライナー先輩」
訓練の休憩時間。私が水分補給をしていれば、ほかでもないライナー先輩に声をかけられた。
彼は何処か呆れたような視線を私に向けてくる。なので、私は「……いえ」と小さく言葉を返すことしか出来なかった。
ただし、私の視線は露骨に逸らされている。……なにかがあるのはバレバレだ。
「隣、失礼するぞ」
そんな私を見て、ライナー先輩は私の隣に腰を下ろす。
彼のその態度を怪訝に思っていれば、ライナー先輩は私の頭をガシガシと撫でた。
「ちょ、やめてください!」
ひとまとめにした桃色の髪が崩れるのを気にして、ライナー先輩に抗議する。けれど、彼は気にも留めていなかった。
「あのなぁ、アルス嬢。……別に、パーティーに参加するくらいでそんなに不安に駆られてちゃ、今後貴族令嬢としてやってけないぞ?」
「……そ、れは」
確かにその言葉は間違いない。
だから、私は視線を下げる。ライナー先輩は、私の顔を覗き込んでくる。
「小規模なパーティーだしな」
「……伯爵家の小規模と、男爵家の小規模だとレベルが違いますよ……」
「そりゃそうか」
けらけらと笑いつつ、ライナー先輩が大きく伸びをした。その姿に、ほんの少し落ち着きを取り戻した。
かといって、冷静になったかと問われれば答えは否だ。
「そもそも、私って色気ゼロじゃないですか」
「……うん?」
「だから、その……なんていうか。ドレス姿、似合わないんですよ」
そこまで言って、私はため息をつく。
せめて、リリーの愛らしさの三分の一くらいでもあればいいのにな……と思って、また落ち込む。
「そんなことないと思うけどなぁ」
対する先輩は、のんきにそんなことを口にしていた。
……そんなことないって言われても。具体性がなさ過ぎて、励ましにならない。
最初のコメントを投稿しよう!