第1章

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 精悍で男らしい顔立ち。背丈は高くて、体格もがっしりとしている。  その漆黒色の髪の毛は乱雑に切られている。でも、この人は素材がいいから。……どんな髪型でも似合ってしまうのだ。  そして、彼のエメラルド色の目が私をじっと見つめている。……いや、睨みつけているが正しいのか。 「ど、どうしました、ヴィクトル様……?」  恐る恐る、彼と視線を合わせてそう問いかける。  すると、彼は「隣、いいだろうか?」と逆に問いかけてきた。……隣って。  そう思いつつ周囲を見渡す。……どこもかしこもベンチは埋まっていて、私の隣くらいしか空いていない。 「どうぞ……」  まぁ、私の隣が空いているのは先ほどまでライナー先輩がいたからだし。……空いていたら座りたいのは、人間の性だ。 「あぁ、感謝する」  ヴィクトル様はそれだけを言って、私の隣に腰を下ろした。  ちらりと彼の横顔を見つめる。その男らしい顔立ちは、数多の令嬢を魅了しているというだけは、ある。 (本当、顔もよくて、同期の中で一番の将来有望株。生まれも名門伯爵家。神様に愛されているといっても、過言じゃないわ)  そんなことを考えて、私は自分との差に項垂れてしまいそうになる。  ……その良いところの一つくらい、私にくれてもいいじゃない。 (まぁ、仕方がないわよね。考えない方向で行かなくちゃ)  自分の頬をパンっと軽く叩いて、自分自身にそう言い聞かせた。  でも、なんだろうか。……少し距離が、近いような気がするのは気のせいじゃない、と思う。 (ヴィクトル様、もう少しあっちに寄ってくださってもいいじゃない)  物理的に肩身が狭くなっているんだけど……。  心の中だけでそう思いつつ、私はヴィクトル様のお顔を見上げる。瞬間、彼と私の視線が交わった。 「……アルス嬢?」  咄嗟に視線を逸らした。……一体、なんなんだろうか。どうして、どうして――。 (このお人、どうして私のことをじっと見つめていらっしゃるの!?)  もしかして、私の顔になにかついているんだろうか?  それとも、私の顔が変なのだろうか?  いや、同期として入団して、以来部隊も一緒。……今更変な顔だなんて、思われる筋合いはない……と思う。多分。
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