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「ヴぃ、ヴィクトル様!」
「あ、あぁ」
「その、気のせいだったら申し訳ございません。……私のこと、じっと見てました……?」
間違えていたら恥ずかしすぎる。自意識過剰じゃないか。
心の中だけでそう呟いて、私はヴィクトル様の返答を待つ。……彼は、なにも言葉を発さずに私を見つめていた。
「じ、自意識過剰だったら、申し訳ございませんっ!」
やっぱり、自意識過剰だったのか。あぁ、恥ずかしい。顔から火が出そうなほどに、恥ずかしい。
(と、とにかく。このままヴィクトル様のお隣にいたら、気まずいし移動しよう)
そして、そう思って立ち上がろうとした。逃げるようで悔しいけれど、仕方がない。
人間関係に関しては、こじれる前に距離を置くのが正解だから。
「その、空気、悪くしちゃったので、失礼しますね」
ペコリと頭を下げて、そう言う。
それから足を踏み出そうとしたとき――手首を掴まれた。驚いて、振り返る。
「……ヴィクトル様?」
どうしてか、ヴィクトル様が私の手首を掴んでいた。きょとんとして、私は彼のことを見つめる。
私とヴィクトル様の視線が絡み合って、いたたまれない。本当にいたたまれない。
「……その、間違いじゃ、ない」
「……え?」
「アルス嬢のことを見つめていたのは、間違いじゃ、ない」
……自分の耳を疑った。
(どういうこと……? 空耳じゃない?)
それとも、聞き間違い?
混乱する頭を必死に動かしていれば、ヴィクトル様まで立ち上がる。え、え、なに?
「アルス嬢。……実は、ずっと言いたいことがあったんだ」
「え、あ、はい」
戸惑って普通に返事をしてしまった。だけど、私の頭の中はパニック状態だ。
(ずっと言いたかったことってなに!? 嫌いとか、実は騎士に向いてないとか言われるの……?)
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