第1章

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「ヴぃ、ヴィクトル様!」 「あ、あぁ」 「その、気のせいだったら申し訳ございません。……私のこと、じっと見てました……?」  間違えていたら恥ずかしすぎる。自意識過剰じゃないか。  心の中だけでそう呟いて、私はヴィクトル様の返答を待つ。……彼は、なにも言葉を発さずに私を見つめていた。 「じ、自意識過剰だったら、申し訳ございませんっ!」  やっぱり、自意識過剰だったのか。あぁ、恥ずかしい。顔から火が出そうなほどに、恥ずかしい。 (と、とにかく。このままヴィクトル様のお隣にいたら、気まずいし移動しよう)  そして、そう思って立ち上がろうとした。逃げるようで悔しいけれど、仕方がない。  人間関係に関しては、こじれる前に距離を置くのが正解だから。 「その、空気、悪くしちゃったので、失礼しますね」  ペコリと頭を下げて、そう言う。  それから足を踏み出そうとしたとき――手首を掴まれた。驚いて、振り返る。 「……ヴィクトル様?」  どうしてか、ヴィクトル様が私の手首を掴んでいた。きょとんとして、私は彼のことを見つめる。  私とヴィクトル様の視線が絡み合って、いたたまれない。本当にいたたまれない。 「……その、間違いじゃ、ない」 「……え?」 「アルス嬢のことを見つめていたのは、間違いじゃ、ない」  ……自分の耳を疑った。 (どういうこと……? 空耳じゃない?)  それとも、聞き間違い?  混乱する頭を必死に動かしていれば、ヴィクトル様まで立ち上がる。え、え、なに? 「アルス嬢。……実は、ずっと言いたいことがあったんだ」 「え、あ、はい」  戸惑って普通に返事をしてしまった。だけど、私の頭の中はパニック状態だ。 (ずっと言いたかったことってなに!? 嫌いとか、実は騎士に向いてないとか言われるの……?)
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