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次世代の騎士団長候補とまで言われているヴィクトル様だ。もしかしたら、彼は人の実力の限界を見極めるのも得意なのかもしれない。……背中に冷や汗が伝った。
「そ、その……だな」
「……はい」
何なんだろうか、この空気。
……何処か甘酸っぱく感じられるのは、気のせいだろうか。
(これ、告白前のシチュエーションでは……?)
いやいやいや、ないないない!
自分で言っておいて、それだけはない!
頭の中の私が、即座に反論してくる。……うん、そうだ。ヴィクトル様ほどのお人になれば、女性なんて選び放題なんだ。
なにも『色気ゼロ』の私じゃなくてもいい。
「あ、えっと……その、ずっと」
「……ずっと?」
「ずっと――」
ヴィクトル様が言葉を口にしようとしたとき。不意に、遠くから「アルス!」と誰かが駆けてくる。
その声に驚いたのは私だけじゃなくて、ヴィクトル様もだった。彼が、ぱっと私の手を離す。
「悪い! 取り込み中だったか?」
「う、ううん、大丈夫よ。……で、なに?」
彼はテオといって、私たちの同期だ。今日は別の業務にあたっていたはずなんだけど……。
「実は、近場で立てこもりがあって。犯人は捕まったんだが、被害者が女性で……」
大体言いたいことはわかった。なので、私は「わかった」と言ってテオに向き直る。
「私が事情聴取をすればいいのね」
「あぁ、頼む」
女性の被害者の取り調べは、女騎士のほうがいい。だから、女騎士は重宝される。
「申し訳ございません、ヴィクトル様。……私、行きますね」
「あ、あぁ、頑張って、きてくれ……」
「はい」
ヴィクトル様にそう返事をして、私はテオと一緒に駆けだす。
「お前、ヴィクトルの奴となにか話してたのか?」
駆けている途中、ふとテオがそう問いかけてくる。……話しているっていうか。
「なにか、伝えたそうにされてたけど……」
彼の態度を思い出しつつ、私はそう思う。すると、テオは「まさか、告白?」とからかうような声でそう言った。
「……テオ、それはないわ」
「そうだよなぁ。あのヴィクトル・フリシュムートがお前みたいな『色気ゼロ』の女騎士を相手にするはずがないもんな~」
「歯を食いしばってくれる?」
自分で言うのは別にいい。けど、けど――。
(人に指摘されるの、めちゃくちゃ腹立つ!)
それだけは、間違いない。
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