第1章

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 ――嘘なんてつくもんじゃない。  それくらい理解していて、もちろんそんなつもりもなかった。  ただ、あえて言うのならば。今後、『彼』と気まずい関係になりたくなかっただけ。 「……お名前、教えてもらってもいいですか?」  その精悍な顔に、真剣な表情を浮かべて。  私からすれば見知った彼は、私を見つめる。 (どうする、どうする、どうする!?)  頭の中で「どうする?」という言葉が反復して、響いて。結局、私は口をパクパクと動かす。  彼のエメラルド色の目が、私を射貫く。……時間がない、時間が、時間が――! 「アリア、アリアって言います!」  咄嗟にこの国で一番メジャーな名前を口にする。彼がぽかんとしているのを見つめて、私は慣れないヒールの靴で踵を返して、出来る限り優雅に見える足取りで歩く。  ……いや、スピードだけで見れば歩くなんてものじゃない。早足だ、全力の早足だ。 (ごめんなさいっ! けど、あなたさまに正体がバレるのはいやなんです!)  振り返ることもなく、歩く、歩く、歩く。  そして、双子の妹の待つ場所に向かって――私は、双子の妹リリーに抱き着いた。 「あ、アルス!?」 「も、もう無理! 私、もうこんな場所――絶対に無理だわ!」  そう言ってリリーに縋る。そんな私を見て、リリーはただ困惑していた。  ……こうなったのは、今から二週間前に遡る。
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