189人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
――嘘なんてつくもんじゃない。
それくらい理解していて、もちろんそんなつもりもなかった。
ただ、あえて言うのならば。今後、『彼』と気まずい関係になりたくなかっただけ。
「……お名前、教えてもらってもいいですか?」
その精悍な顔に、真剣な表情を浮かべて。
私からすれば見知った彼は、私を見つめる。
(どうする、どうする、どうする!?)
頭の中で「どうする?」という言葉が反復して、響いて。結局、私は口をパクパクと動かす。
彼のエメラルド色の目が、私を射貫く。……時間がない、時間が、時間が――!
「アリア、アリアって言います!」
咄嗟にこの国で一番メジャーな名前を口にする。彼がぽかんとしているのを見つめて、私は慣れないヒールの靴で踵を返して、出来る限り優雅に見える足取りで歩く。
……いや、スピードだけで見れば歩くなんてものじゃない。早足だ、全力の早足だ。
(ごめんなさいっ! けど、あなたさまに正体がバレるのはいやなんです!)
振り返ることもなく、歩く、歩く、歩く。
そして、双子の妹の待つ場所に向かって――私は、双子の妹リリーに抱き着いた。
「あ、アルス!?」
「も、もう無理! 私、もうこんな場所――絶対に無理だわ!」
そう言ってリリーに縋る。そんな私を見て、リリーはただ困惑していた。
……こうなったのは、今から二週間前に遡る。
最初のコメントを投稿しよう!