祖母の似顔絵

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肩で息をしながら電車に乗り込み、目的地まで5駅ほど揺られていた。もちろん三神と一緒に。彼は突然の私の行動に、訳が分からないという様子で、でも黙って隣にいてくれた。 「すみません。お子さんたち、置いてきちゃって……」 「いえ、大丈夫です。あの子たちにLINEで、しばらく練習を続けておくように伝えました」 「ありがとうございます……」  不意の出来事にもかかわらず、文句一つ言わずに淡々とやるべきことをこなしていく三神が、私には素敵な人だと思った。  電車が目的地へと着くと私は三神を案内しながら歩き出した。  やがてたどり着いたのは、介護施設『なないろ』だ。  心臓がドキドキして、一気に身体が引き締まる。三神はただ私の隣にいてくれた。 「あら絵菜さん。お久しぶりね」  最後に祖母の顔を見にきてから随分経つのに、スタッフの江口さんは笑顔で私を出迎えてくれた。 「ご無沙汰しています。最近来れていなくてすみません」 「いえいえ、そんなこと謝らなくていいの。お連れの方は?」 「あ、この人はその、なんていうか、友達、です」  咄嗟に嘘をついた私だったが、友達と言われて悪い気はしないのか、三神も「よろしくお願いします」と頭を下げた。  江口さんに案内されて、祖母のいる部屋に入る。
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