祖母の似顔絵

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「乾さん。久しぶりにお孫さんが来られましたよ。お友達の方も一緒に」  窓の方を見ていた祖母の顔が、機械のようにくるりとこちらを振り返り、私たちを一瞥した。 「だあれ?」  祖母の口から出てきた質問に、隣で三神が息をのむのが分かった。私も、心臓がつままれてように胸が痛い。でももう覚悟はしていたことだった。 「おばあちゃん、私今からちょっと絵を描くね」  祖母の質問には答えずに、私は部屋に据え置かれた椅子に腰を下ろす。三神はそんな私を、驚いた様子で見つめていた。  私はトートバッグから画材を一式取り出して、江口さんに水を汲んでもいいか尋ねる。彼女は頷いてくれて、私は水入れに水をたっぷり入れてもらった。  スケッチブックを開き、まずはデッサンを始める。  鉛筆をスケッチブックと平行になるくらい寝かせて、サッサッと線を重ねる。  集中力を使う作業だ。少しくらいずれても修正はできるが、中心点がずれると後で大変なことになるので、全ての線を慎重に描いた。  やがてデッサンが終わると、私はパレットに絵の具を絞り出す。  水を含ませた筆で、パレットの絵の具を混ぜていく。  出来上がった特別な色を、デッサンの上に置いた。  置く、という表現がぴったり当てはまるくらい、一筆一筆丁寧に色を重ねていく。  濃淡を出すために、水の量を増やして色を薄める箇所もあった。部屋の中に置いてあったティッシュをもらい、紙の上に溜まりすぎた水を吸い取っていく。色がちょうどよく滲んで、納得のいくグラデーションが出来上がる。  そんな作業を丹念に繰り返し、私は1時間かけて、絵を完成させた。
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