0人が本棚に入れています
本棚に追加
そして次は、耳が悪くなった。
補聴器でも完全にカバーできないほどに。
更に足腰が急激に衰え、両手もしびれるようになった。
俺が六十八歳の時だ。
住んでいた古アパートが夜中に家事になった。
住民二十名が死んだ。生きていたのは俺だけだった。
俺が七十の時だ。
ふと気がつくと、自分の名前がわからなくなっていた。
しばらくして思い出したのだが、自分の名前すら忘れてしまうとは。
少し前から記憶力が壊滅的な状態となっていたが、忘れるはずのない古い記憶も危うくなってきたようだ。
これが痴呆というやつの始まりか。
でも俺は、あの男の言う通りなら、あと三十年生きなければならないのだが。
それもたった一人で。
終
最初のコメントを投稿しよう!