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彼はそう言うと、鞄をひっつかんで転びそうになりながら立ち上がった。さっさと帰るぞ!と言いたいらしい。その顔には恥ずかしさと照れと、ちょっとばかりのガッカリ感が見えるようだ。
まあ、彼が何を狙っていたのかは大体わかっている。それに気づいていながら、放置している私も相当意地が悪いのだろう。
「とりあえず、クリスマスをカノジョと一緒に過ごせるといいねえ?」
「うっせええええ!」
バタバタと教室を飛び出していった彼は、またしても上着を忘れていった。今日がいくら十二月にしては暖かいとはいえ、よくまあシャツだけの姿で寒くないものである。
笑いながら私は再び上着を回収して、彼の後を追いかけたのだった。
そして、後日。
「バカなやつ」
十二月五日の火曜日。私の靴箱の上に、“柿本里琴様”と書かれた封筒が。中には、あまりにも見慣れた、お世辞にも上手と言えない文字の手紙が入っている。
実のところ、相談に乗った時にはわかっていた。女子サッカー部を一人で立ち上げ、四人の仲間をなんとか揃えて活動を始めた女――は私のことなのだから。
そもそも、彼が自分にあんなにペラペララブレターの話を白状したのもそう。あわよくば、私に気付いて欲しかったというところではなかろうか。そして、今回も。
「手紙なら饒舌なくせに」
一生懸命書いたのだろう。手紙には、彼の文字でびっしりと愛が記されている。
「お返事ください、書くの忘れてるし。それじゃ返事なんかもらえませんよーと」
もう少しだけ泳がしてやろうか、と思う。手紙も悪くないが、どうせなら“気づいて貰おう”とか“相手から言って貰おう”なんてしないで、堂々と自分の口で言いに来いというものだ。そういう勇気こそ、女の子は魅力的に感じるものなのだから。
とりあえず二十二日の金曜日まで待ってみようと決める私である。その日までにリアクションがあれば、自分もちゃんと誠実な答えを返すのだから。
――クリスマス。……待っててあげるから、早くしなよね。ばーか。
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