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大雪が降った翌日、玄関前の雪山に灰色の雑巾みたいなのが落ちていた。
誰だ、こんなところにゴミを捨てたやつは! と拾い上げようとしたら、モゾリと動く。
生き物なのか⁉ リス、ネズミ、ウサギ、ネコ?
考えつく限りの北国で暮らす小さな生き物を想像しながら、よくよく覗き込んでみたら、かすかに目を開いた『小さなお爺さん』
初めて見た小人の存在に、悲鳴を上げそうになった俺は慌てて自分の口を塞いだ。
しわくちゃの顔、長い白髪交じりの髪、刺繍入りの灰色のマントと揃いの鉢巻き……。
なんだっけ、なんだっけ?
咄嗟に自分の中の知識を拾い集めて、出てきたのは。
「コロポックル?」
フルフルと俺の呟きに頷いた小さなお爺さんは、雪の中に下半身が埋まっていてズブ濡れだ。
辺りを見渡すと、幸いまだ誰の姿もない時間。
両手で小さなお爺さんを雪の中から引っこ抜いて、掬い上げて部屋に戻った。
タオルハンカチで濡れた髪の毛を拭き、マントを脱がそうとしたらそれは嫌がられたのでドライヤーを弱いモードで顔に当てないように乾かす。
ようやく全部乾く頃には気持ち良さそうにコックリコックリ居眠りを始めたお爺さんを、ベッドの上の枕に静かに寝かせて毛布の端っこをそっとかけた。
起きたらお腹空いてるかもな。
だけど何を食べるのかわかんないし。
結局、昨日買って余っていたクッキーを二枚とペットボトルのキャップに牛乳を入れて、仕事に出掛けることに。
どうして雪の中にはまってしまったのかは不明だけど、その姿を思い出しては不憫なんだけどなんだか笑いがこみあげる。
「課長、今日機嫌良さそうじゃん」
そんな部下たちの囁きもスルーできるほど、ほっこりした気持ちで家に帰ったら。
コロポックルのお爺さんはもういなかった。
だけど、置いておいた食べ物はなくなって、お爺さんがいたのは夢ではなかったんだと思った。
まあ元気になったなら、いいか。
なんとなく優しい気持ちでいられた今日一日。
苛ついた瞬間、あのお爺さんの居眠りを始めた顔がチラついて、どうでもよくなってしまったのだ。
こんな穏やかな気持ちになったのは久しぶりだった。
明日もこんな日であるようにと目をつぶって新しい朝を待つ。
翌朝、玄関を開けたらそこにはドングリの山があった。
もしかしてだけど恩返し的な?
クスッと笑った俺の目に飛び込んできたのは、新しく積もった雪山の天辺で動くもの。
雪山に下半身が埋まったコロポックルのお爺さん。
目が合うと恥ずかしそうに笑っていた。
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