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宇晨の父、黎暁宇はかつて禁軍の将軍であった。
黎家は代々武人を輩出する名家であり、一族に倣い、若くして軍に入った暁宇は、持ち前の才能と努力で位を上げていった。
異民族の西戎との大きな戦では、小隊を引き連れて夜通し荒野を駆け抜け、危機にあった国境の砦への援軍に一番に駆け付けた。夜明けに白剣を掲げて地平から現れた暁宇は、まさに黎明の化身のようであり、砦にいた兵士達の心を大いに震わせて勝利を導いたという。
そんな数々の武勲もさながら、実直で裏表のない性格の暁宇は帝にたいそう目を掛けられていた。帝の直轄にある禁軍の中でも、帝の傍で直接護衛する近衛四霊軍の将軍に早々に抜擢されたくらいだ。
そんな暁宇の息子である宇晨は、父に連れられて宮城に出入りすることが度々あった。暁宇の母(宇晨にとっては祖母にあたる)が先帝の縁戚ということもあり、特別に出入りを許された宇晨は、同年代の皇子達の遊び相手になることもあったくらいだ。
宇晨もまた、いずれは父のように軍に入り、父のような立派な将軍になるのだと、宇晨だけでなく、誰もが思っていた。
それが一変したのが、宇晨が十三歳の時に起こった事件だ。
謀反の疑いのある一族を掃討する勅命を受けた暁宇が、一族の子供を救い逃がしたのである。
一族郎党すべてを抹殺する勅命に背いた暁宇は、将軍の地位を剥奪のうえ、投獄された。
もっとも、これは処罰としてはかなり甘い方だ。本来ならば暁宇は処刑され、黎一族も九族皆殺で処刑されていたことだろう。良くても男は辺境で厳しい兵役を課せられ、女子供は奴婢となるのが普通だ。
そうならなかったのは、ひとえに、暁宇の人柄が良くも悪くも知られていたからだ。
本人に謀反の意思は無く、ただ子供への憐れみがあり、罪なき者を見過ごすことのできない義侠心によるものだと帝も分かっていた。さらには、暁宇を慕っていた将軍や兵達の多くの嘆願もあって、投獄と拷問だけで済んだのだ。
一年と半年を過ぎた頃、暁宇は恩赦によって牢獄生活から解放されて家に戻ることになった。しかし、刑罰によって負った怪我の後遺症で衰弱していた暁宇は、それからふた月も経たずに亡くなった。
暁宇亡き後、黎家は没落した。邸や財産は恩赦で手元に残ったものの、家の主人がいなければ、次第に生活も立ち行かなくなる。そのうえ、禁軍将軍でありながら勅命に背いた話は都中に広まっており、多くの好奇の目にも晒された。
宇晨の祖母や母は気丈な人で、苦境にも毅然と耐えていたが、宇晨の年の離れた妹である幼い娘の行く末が案じられた。そして、母と妹は都を離れて、景州にある親戚の元へ身を寄せることになったのだ。
しかし宇晨は、先祖代々の祠堂がある黎家の邸を守るため、都に残ることを決めた。
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