第三話 鬼将軍

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 二人で食べるには多すぎる量の菓子を、曹寧と孤星も相伴に預かることになり、四人で卓を囲む。  久しぶりの大人数の団欒は心温まるものだった。  林芳や曹寧は近頃の仕事の様子を聞いてくるが、立て続けに起こった奇怪な事件のことを話すことはできない。内容は割愛して順調だと答えたものの、宇晨は傍らにいる孤星が何を発言するか内心でひやひやしていた。  しかし宇晨の心配をよそに、孤星は相変わらずの口の上手さで林芳や曹寧の質問に卒なく答えていた。  自分が仙人だと吹聴することも無く、首切り琵琶や人食い大蛇の事は少しも口に出さず、斉州の話や耀天までの旅の話を面白おかしくするので、普段都から出ることの無い女性二人は興味津々だ。  そう言えば、孤星は耀天に来る前に斉州の道観に寄ってきたと話していた。だから斉州にも旅にも詳しいのだろう。斉州の名物料理で漢方や香辛料を加えたスープで作る鍋が絶品だとか、旅の途中で出会った芸人の一座に合流して簫を披露しただとか。  さらに、医生と名乗ったのは出まかせだと思っていたが、自称仙人は医術にも詳しかったようだ。林芳の脈を診て心の臓の病であることを言い当て、薬の処方を紙に記す姿は、ずいぶんと様になっていた。  林芳も曹寧も、すっかり孤星を信用し気に入ったようだ。孤星が今後斉州の料理を作るからぜひ食べに来てくれと誘うと、二つ返事で頷いた。  そうして林芳は「不束な孫ですが、どうぞよろしくお願いします」となぜか孤星に頼み、来た時よりも幾分か機嫌を良くして帰っていった。もちろん、宇晨に対しては「来月は必ず林府に来るように」と小言を忘れずに。  二人が乗った馬車を見送り、門を閉めて主屋へ戻ろうとした時だ。  門扉を叩く音がして、宇晨達は振り返った。 「おや、曹寧殿だろうか。何か忘れ物でも……」  孤星が踵を返して門を開けると、そこにいたのは曹寧とは似ても似つかない、大柄で閻魔のように厳めしい髭面の男が立っていた。  孟開だ。 「孟伯父!」  宇晨は、慌てて孤星を押しやって孟開を招き入れた。  孟開はいつもの赤い官服ではなく、落ち着いた色調の私服の袍を着ていた。眉間に深い皺を寄せた孟開が、宇晨と孤星を交互に見やる。  その表情が硬いことに気づき、宇晨は孤星に向かって片手を振った。 「白孤星。私が対応するから、(くりや)の片付けを頼む」 「分かったよ。やれやれ、今日は来客が多い日だね」  孤星はあっさりと身を翻して、厨のある房へと去っていった。  宇晨は孟開を先ほどの客間ではなく、書室の方へと案内する。奥にある長椅子に座るよう勧めると、いつもの剛毅さはどこへやら、孟開は重たい息を吐きながらゆっくりと座った。どこか悩んだ様子の彼に、宇晨は心配になる。 「孟伯父、どうされたのですか。何か耀天府で問題でも?」 「ああ、いや……そういえば、先ほどの男が例の『白孤星』か? 本当に黎家(ここ)で一緒に住んでいるのだな」 「はい。今の所、特に怪しい素振りも無く……いずれは出て行くでしょうが、彼に何か用でしょうか?」 「……そうとも言える」  孟開はもう一度大きく息を吐くと、宇晨をひたと見据えた。 「宇晨……昨晩、暁宇の幽鬼が宮中に現れた」
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