雨と彼女 ―五月―

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「──あげるわ、この傘。それからこれも。風邪ひくわよ」 急にさえぎられた雨。差し出されたタオル。 びっくりして顔を上げる。 「安物よ、両方。 ……飼ってあげられないのに、変な情けはかけないほうがいいわ」 見透かされた気がした。浅はかな偽善心を。 それは、確かにオレのなかでは偽った感情ではなかった。 けれども。 どうしてやることもできない無力な自分を解っているくせに、この場にいるオレは、なんなんだろう……。 「そうかも……知れない。けど、オレは──」 見捨てられない。せめてあと少し、一緒にいてやりたい。 それくらいしか、いまのオレに、できることはなかった。 うつむいて、手のなかの仔猫をなでさする。ややして、彼女の大きな溜息が聞こえた。 「私の家、この近くなの。私は無理だけど、友達に猫を飼いたいって言ってた子がいるから」 相変わらずの素っ気ない言い方。 だけど、オレが感じた彼女──瑤子(ようこ)さんの第一印象とは(たが)わずに、言葉の裏側に隠された暖かみに、救われた気がしたんだ。
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