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──無言。これ以上の無駄口は、必要ない。
そう思って黙りこくるオレの耳にキャプテンの苛立った声が届いた。
「おいっ、斎藤はどうした!? 誰か呼んでこいや──」
「オレ、見て来ます!」
今中に付き合うのに辟易していたオレは、いうが早いか駆け出した──。
斎藤蒼。女生徒の間じゃ、かなり有名で人気のある二年生だ。
女好みのルックスに、学年トップクラスの成績。
中学だけ一緒だった姉ちゃんの言葉を借りると、
「嫌みなくらい非の打ち所がない優等生で、それでいて女がらみの噂が絶えない、私の嫌いな、女を馬鹿にした意味での優しいタイプ」
だそうだ。
オレは斎藤先輩があまり好きではなかった。はっきりいうと、嫌いだった。
練習はよくサボるし、なんに対してもいい加減な態度で、真剣さが足りないっていうか……とにかく、嫌いだった。
新校舎にある二年生の全クラスを見て回っても、先輩の姿は見当たらなかった。
下駄箱に先輩の靴は残っていたので、帰ってはいないだろうと、仕方なく一階の教室から四階の図書室まで探したけど……結果は同じだった。
「──斎藤なら、美術室で見かけたけど?」
そう声をかけられたのは、旧校舎の三階と四階の踊り場だった。
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