ウソ

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ウソ

ケイの泣きそうな顔が好きだ 俺が浮気をしてるのを知っているのに、必死に誤魔化して、無理矢理笑顔を作っている顔が好きだ 俺のことが、好きで好きで堪らないくせに、俺が浮気しているのを咎めない あの顔が好きで、俺のことしか考えていないケイが可愛い クリスマスイヴに、ワザと昼間は一緒に居たのに、夕食時になってから家を出た 今日はずっと一緒に居れると思わせて、ワザと傷付けるように あの時のケイの泣き出しそうな顔が最高に可愛かった 今日は、ケーキとプレゼントを買ったら戻るつもりだ こんな日に、興味も愛もない相手の所に行くなんてバカな真似するかよ 泣いているであろう、アイツの元に、ケーキと買ったこの薔薇の花束を渡してやろう 改めて言うのは照れくさいが、「愛してる」って言ってやろうと思う ケイを他のヤツに取られないように 今後はもう少し優しくして… 少しは、素直になってやってもいいかもしれない… あの耐えるような泣き顔を、嬉し泣きの顔にしてやりたい 家を出て、2時間も経ってないが部屋は異様に静かだった どの部屋も電気が付いておらず、真っ暗で… さっき出て来た部屋とは思えない ダイニングに置かれた料理はいつもよりも豪華で、俺の好物ばかりが並んでいる 簡単にラップだけがされ、手を付けていない様子から俺が出た後に泣いて食べていないのが伺える なのに、部屋のどこを探しても見当たらない 風呂でも溜めているのか、水の音が異様に大きく聞こえ、何故か嫌な予感がする 浴室にも電気が付いていないのに、誰かの人影だけがうっすら見えて 「ケイ、こんなところで泣いてたのか?」 声を掛けてみるも一向に返事が返って来ない 水道の水の音だけが響いていた 「……ケイ?」 湯船に服のまま浸かり、項垂れている恋人の肩に触れる 透明なはずの浴槽内が赤く見える 力なく湯船に倒れるように沈む恋人の姿 「ケイっ!?」 冷たい水に浸かっていたせいなのか、それとも腕から止め処なく流れ出る赤い液体のせいなのか、氷のように冷たい恋人に熱を奪われる あの後、どうなったのかは覚えていない ただ、俺は生きている意味を失くした もっと、もっと早く、素直になっていれば… それも今はもう遅い ただ、早くケイの元に行きたい ケイに直接会って謝りたい 「愛してる」この一言を伝えたい
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