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どこか近くで本のページをめくる音。
カーペットの上を移動する誰かの足音。
ひそひそ話と咳払い。
図書館の中をただよう微細な埃が読書灯の中で揺れる。
「ごめんね」
ユキがふいに目を逸らした。
「時々言われるんだ。僕は、普段しゃべらないのに、いったんしゃべり始めると、その、変わってるって」
変わってる。
でも全然悪い意味じゃない。
ユキを変わり者扱いした奴がいるとしたら、そいつは馬鹿だ。
こんなにも、見返りも無さそうに、素朴に好意を向けてくれる人間は、探しても見付からない。
「ところで、隼は、図書館に何か用があったの?」
黙り込む俺にユキが戸惑う顔をする。
今日は午後からの雷雨で急に練習が中止になって。そこに母親からの電話がかかってきて。
自然に、普段行かない方に足が向いていた。
中央図書館を選んだのは、多分ユキが昼休みに話していたからだ。
放課後はだいたい図書館にいるって。
なんとなくの偶然と気まぐれ。
そう言いかけてから言うのをやめた。
「ユキがいるかなと思って、会いに来た」
素朴に好意を向けてくれる相手に対して、言い訳をする必要は、無い。
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