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「来てよかった」
ユキの首に腕を回す。
そんなことを、ごく自然にやってしまっていた。俺は帰国子女でもないのに。
ユキの体温が心地良い。
大丈夫。上手くいってる。母親に向けて放った台詞が自分に返ってくる。
大丈夫。
ユキの腕が俺の肩に回された。
「隼がそう言ってくれると嬉しいよ」
翻訳したようなしゃべり方も悪くない。
むしろ、ずっと聞いていたい。自分も正直な人間になれそうな気がする。
正直になるのは怖い。自分だけで自分に向き合うなんて怖すぎる。
「また、たまに来てもいい?」
ユキなら俺を充電してくれそうな気がする。
母親と話した後の重苦しい気持ちが消えていく。
「もちろんだよ」
ユキがはにかんだように微笑む。
ユキのさらりとした髪が俺の指の中から出ていく。
自主練に向かうことにした。図書館の階段を早足で駆け下りる。
振り仰ぐと、ユキが俺を見下ろしていた。
無遠慮なまでの、好意と関心に満ちた視線。
それを向けられるのは悪くない。
ユキなら。
むしろ、ユキがそんな目で他の者を見るのは許したくない。
一階から手を振ると、ユキが遠慮がちに手を振り返した。
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