1.十九才 大学二年生 春

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 図書館の外に出てスマートフォンをもう一度確認する。かがりと共有しているアプリを開く。  かがりは今、第二体育館にいる。  かがりの脈拍と位置情報を確認する。  ウエアラブル端末をかがりに着けさせている。  よく装着し忘れるので、毎日俺が、手首に着けてあげる。ラベンダー色のバンドはかがりによく似合っている。  かがりは俺に管理されて拒否するそぶりもない。  かがりの胸を思い浮かべる。  小さめの固い乳房。その下の心臓。  かがりの心拍を、その波形を、確認すると安堵と共に胸苦しくなる。  生きている身体を、踊るためにしなる背骨を、首筋に浮かぶ汗を思って、胸苦しくなる。  身体も心も全部欲しい。  俺は狂いかけてる。おかしいのは分かっている。  手に入れたも同然のものを、握りつぶして窒息させてしまったら、何の意味もない。  そのことは分かっているのに。  かがりが生きていることがこんなにも愛おしいのに。  生きているかがりはこんなにも俺を苦しめる。  ユキの目を脳裏に再生する。  崇めるように俺を見つめる目を。  ユキの目の中に、俺自身が映っていた。  深い呼吸を。  息を吐いて、三秒止める。  息は吐かないと吸えない。  ユキの目を再生しながら呼吸する。  新たな酸素を取り込む必要がある。    
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