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2.十九才 大学二年生 春(十八才の回想含む)
水曜二限の後の昼休み。
梅雨が近付き、外は音のしない雨が降っていた。
講義室の外廊下の造り付けのベンチに三人、肩を寄せ合う。
かがりを真ん中に。
食堂は人が多すぎて好きじゃない。
廊下に、雨の匂いとユキの買ってきたコーヒーの匂いが混ざっている。
その動画をユキに見せようと思ったのは、一つには、自分たちだけで見る覚悟がなかったから。もう一つは、ユキに期待する気持ちがあったから。
何をどう期待しているのか、自分でも分からない。
ユキは『感覚を当てはめる言葉が見付からない』と言っていた。
それに近いのかもしれない。
明確に言葉にならない淡い期待。
ユキが何かを変えてくれそうな。
かがりがユキのカップからコーヒーを一口もらっている。苦いねと言って笑う。
このやり取りはもう何度目か分からない。
かがりがユキに心を許しているのを見て、複雑な気持ちになる。
密かな嫉妬心と、かがりを一人で受け止めなくてもいいんだという安心感と。
その動画は、かがりが床に寝そべっている場面から始まる。
俺がサッカーボールを三回、足でリフティングしてから、四拍目で寝ているかがりにパスする。
かがりが寝た姿勢でボールを受け止める。腹筋や、かかとや肘を上手く使って、かがりがリフティングを始める。
徐々に身体を起こし、ボールが跳ねる高さも上がってくる。
かがりの身体はバネのように強靱で、それでいて所作が美しい。かがりが動くと動きが踊りに見える。
画面の中、かがりは身をひるがえし、ボールを背中に乗せた。ちょうど水族館のショーのアシカのようにボールを乗せたまま床上を転がり、膝にボールを挟んで逆立ちを決めた。
*この章から女性が登場します。後の章では女性も含めた性描写もあります。女性とふたりだけの場面もたくさんあります。
BLの中に女性が登場することが苦手な読み手の方は、無理をしないよう、お願いします。
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