2.十九才 大学二年生 春(十八才の回想含む)

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「すごいね」  ユキがのまれたような様子で感想を口にした。 「これは、こういうダンスのジャンルなの?」  タブレットの中で、逆立ちをしたかがりが高い位置でボールを放すと、今度は俺がボールの下に入り込む。  床に転がり、先ほどのかがりと同じ動きをくり返す。俺の方が動きが大きいけれど、かがりのような、つま先まで行き届いたような完成度には遠い。  俺の逆立ちを見て、ユキはため息をついて、首を振った。 「すごい。僕がこんなことをしたら、首の骨を折るよ」  俺はユキの、男にしては細くて長い首を見やる。  かがりと同じくらい白い肌をしている。自分の好みってやつが、分かりやすいなと思う。  動画は一分ちょっとで終わる。実際やってみると分かるが、一分間動き続けるというのは結構長い。  途中、二人立ち上がって、背中合わせにボールを回し合ったり、かがりがボールを膝で挟んで隠してしまい、俺が探す、というコミカルな場面も入る。  アドリブに見えるけれど、実は何度も練習した。  最後は俺の股の間をかがりがボールを奪いながらくぐり抜けて、逆立ちしてボールを俺に手渡して、フィニッシュ。  画面の中に、見つめ合うかがりと俺が永遠に残されている。  踊り終えたあとの数秒間。  あれは永遠だった。  あの時間を、かがりとふたりだけで省みるのが怖い。  見終えて、ユキが賞賛の言葉を述べた。  信じられないくらい素晴らしいと。  かがりは目を細めて俺の背に顔を寄せた。 「懐かしいわ」 「いつの動画なの?」  ユキが問う。 「隼と初めて会った日に撮ったものなの」
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