2.十九才 大学二年生 春(十八才の回想含む)

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 かがりはリフティングを教えて欲しいと言った。  言う、というか身振り手振りでそう示した。  その午前中いっぱい、俺はかがりにリフティングを教えて過ごした。  サッカーボールがかがりには重すぎるのではないかと思ったが、杞憂だった。  よく伸びた膝裏と、しなやかな足首。かがりは上達が早かった。教えるのが楽しいと思えた。  昼休憩では講師も一緒にみんなで輪になって昼食をとった。こんなことも、おままごとくさいと思ったが帰りたい気持ちはなくなっていた。  不格好なおにぎりを子リスみたいにかじっているかがりから、目が離せなくなっていた。  一目惚れ、というのがあるとしたら、その瞬間を覚えている。  午後の講義の開始直後、かがりはサッカーボールを腹にのせて、床に寝そべってみせた。  光沢のあるパールホワイトのジャージの上下。体育館の床に広がった黒い髪。  一呼吸、のち、跳ね上がるサッカーボール。  かがりは完璧だった。  全身を使って見事にボールを操って見せた。  それはどちらかといえばサッカーというより新体操の床競技に近かったのかもしれない。  魅せる、ということにかがりは無自覚なまでに野性的だった。  逆立ちで、膝でボールをキャッチし、バク転で立ち上がった後、かがりは俺の目を真っ直ぐに見た。  髪がひと房、汗でおでこに張り付いていた。  その目で、かがりは俺を撃ち抜いた。  大きな問いかけるような目だった。
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