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「講師の先生が、撮影した動画をくれたんだ。ここ数年で一番すごい出来だったって誉められた」
「この日初めて出会って、この日初めてダンスを合わせたの?」
ユキは何度も事実関係を確認した。
事実関係、と表現するユキの重々しさが、彼らしい。
運命的だね、とユキは感想を口にした。
運命的に出会った二人なんだね、と。
ユキの言葉は本当に聞こえる。嘘が無さそうに。
本気で感激でもしているふうに。
運命だと思った。
言葉無しで通じ合える。かがりと動きを合わせることに、夢中になった。
心底楽しいと、時間を忘れるくらい、かがりと遊ぶのに夢中になった。単位のことなんて忘れていた。
誰の目も気にならなかった。
空が広かった頃の感覚。
夕暮れ時の芝生の上で、疲れることも無く自分に吸い付いてくるサッカーボールみたいに。
永遠に二人きりでいたいと思った。
「この日、隼は、わたしが何をやりたいか分かってくれたの。とても辛抱強く待ってくれたの。そういうひとは初めてだったの」
かがりの言葉もまた、とても素直に響く。
時間をかけてかがりの咽と舌を通過して出てくる言葉。小さな小さな声が波紋のように優しく響く。
かがりは、言葉を軽んじているから言葉が出せないのではない。
考えて考えて、濾過されて出てきた一滴を受け止めてくれる相手を待っている。
それはユキのような人間なのかもしれない。
かがりとユキは似ている。最初にユキと話をしたのも、俺ではなく、かがりだった。
言葉無しで、身体でわかり合えると、でもそれは幻想だった。
『とても辛抱強く待ってくれた』とかがりは言った。
かがりが求める俺と実際の俺とは違う。
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