『危険な方を歩く』

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 俺は産婦人科の診察台がどういうものか知らなかった。  そこで女性がとらされる姿勢は屈辱的だと思った。  かがりの性器に、医師が、指や器具を突っ込むのだと知って怒りさえ覚えた。  かがりの下半身はカーテンのようなもので隠されていたのだけれど。 「三人でセックスしました」  かがりは、はっきりと言葉にした。  消え入りそうな弱々しい声を発するかがりではなかった。 「三人で一緒に、です。日にちの差というものはありません」  診察台の上で股を開かされたまま、かがりは答えた。  診察室の揺らめくモニターに映し出された白い影。  まさに小さなタマゴのようだった。  医師に説明されてよくよく観察すると、確かにタマゴの中が、どくどくと脈打っていた。  俺は自分のこめかみがどくどくと脈打つのを感じていた。  これが、自分が誘い招いたことの結果なんだと。  いっそこのまま、こめかみが破れて死んでしまえたらいいと思った。  俺たちは市役所に母子手帳をもらいに行った。  母子手帳の母親欄はひとつだけ。  だけど、父親の欄はふたつ分、ふたり分の名が書き込めるスペースが用意されていた。  かがりは、三人で育てよう、とくり返した。  かがり、俺、ユキの順で欄に名前を書いた。  ユキが遠慮したからだ。俺に、先に名前を書けとすすめた。  母親の職業欄と父親の職業欄には学生と書いた。  年齢の欄には二十歳と書いた。  三人とも二十歳だった。
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