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3.十八才 大学一年生 春から夏
大学一年生の五月。
創作ダンスの集中講義の後で、かがりと連絡先を交換することも出来ず帰宅した。
思い悩む自分が腹立たしかった。
自分から女の子に声をかけたことがないことに気が付いた。
誘いがあれば相手の見た目次第で応じるし、一度きりの身体の関係に留めることも忘れなかった。
相手の顔も名前もあいまいだった。
執着されるのは面倒くさかった。
一度やった女の子を、鼻をかんだ後のティッシュみたいに扱っていた。
俺と接触することで、注目を浴びたり承認欲求を満たしたい女なんだろう、としか思わなかった。
かがりを目で追うようになってやっと、女の子たちの勇気に思い至るようになった。
「必ず見付けてくれる?」
大学一年生の夏休み直前だった。
五限の後に、悲壮ともとれる表情でかがりは俺に声をかけてきた。
かくれんぼをしたいのだと。
かがりが話しかけてくれて、嬉しかった。一瞬、何を言われたのか分からないくらい嬉しかった。
かがりの消えそうな声を必死に聞き取った。
必ず見付けて、そう言って走り去ったかがりのあまりに完成された後ろ姿。風になびいた髪。
なんで俺が追う立場なんだと、嬉しいのに、腑に落ちない気持ちはあった。
蠱惑的な誘い、あるいは恋愛の駆け引き。かがりが俺を落とすことを意図していたのなら、それは完璧な作戦だった。
俺は完璧に堕ちたし、それを、かがりのせいにした。
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