3.十八才 大学一年生 春から夏

1/6
前へ
/94ページ
次へ

3.十八才 大学一年生 春から夏

 大学一年生の五月。  創作ダンスの集中講義の後で、かがりと連絡先を交換することも出来ず帰宅した。  思い悩む自分が腹立たしかった。  自分から女の子に声をかけたことがないことに気が付いた。  誘いがあれば相手の見た目次第で応じるし、一度きりの身体の関係に留めることも忘れなかった。  相手の顔も名前もあいまいだった。  執着されるのは面倒くさかった。  一度やった女の子を、鼻をかんだ後のティッシュみたいに扱っていた。  俺と接触することで、注目を浴びたり承認欲求を満たしたい女なんだろう、としか思わなかった。  かがりを目で追うようになってやっと、女の子たちの勇気に思い至るようになった。 「必ず見付けてくれる?」  大学一年生の夏休み直前だった。  五限の後に、悲壮ともとれる表情でかがりは俺に声をかけてきた。  かくれんぼをしたいのだと。  かがりが話しかけてくれて、嬉しかった。一瞬、何を言われたのか分からないくらい嬉しかった。  かがりの消えそうな声を必死に聞き取った。  必ず見付けて、そう言って走り去ったかがりのあまりに完成された後ろ姿。風になびいた髪。  なんで俺が追う立場なんだと、嬉しいのに、腑に落ちない気持ちはあった。  蠱惑的な誘い、あるいは恋愛の駆け引き。かがりが俺を落とすことを意図していたのなら、それは完璧な作戦だった。  俺は完璧に堕ちたし、それを、かがりのせいにした。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加