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かくれんぼをしよう、とかがりに誘われたあの日。
初めて部活をさぼった。サッカーよりも他のことを優先したことなどなかった。
かがりは校舎の外へ走り去っていった。だから校舎の外回りやグラウンドを探した。
見付からないので、学科棟に戻って教室を一つ一つ見て回り、立ち入ったこともない研究棟にまで入ってみた。
何をしているのか、させられているのかと戸惑った。からかわれているのだろうかと考えた。
かがりの深刻そうな顔を思い出すと、見付けてやらなくては、とも思った。
もう一度グラウンドに出て、第二グラウンドまで足を伸ばした。主に陸上競技が行われる方だ。
いい加減疲れたし、探すのをやめたいと思った。
暑くて咽が乾いた。
それなのに何故か、何も飲まずに探し続けた。熱に浮かされた人のように。
足を止めてはいけない気がしていた。
グラウンド脇に古びた体育倉庫を見付けた。
近付いてみると倉庫は思いの外大きかった。
錆の浮いたスライド式の鉄扉がわずかに開いているのを認めた。
隼、と呼びかける声に我に返った。
夢の中を歩いているような気さえしていた。
隼、と思い返せば、あの頃のかがりにしては、はっきりした声で、呼びかけてきた。
倉庫の最奥にかがりは、いた。
倉庫の奥に長机やコンパネの上にブルーシートが折り重なっていた。
ブルーシートの間からのぞいた顔と手。
かがりをブルーシートから引っ張り出すときも、やはり、夢の中を動いているかのようだった。
かがりの手は熱かった。
ぐったりした顔を見て、なぜここまでしてと怒りさえ覚えた。
俺を振り回す女、という存在に慣れていなかった。
振り回されて翻弄されて、揺り動かされる心。
冷静に振り返るだけの余裕はなかった。
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