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ずっと側にいるよ、とかがりに告げた。
保健センターの白いベッドサイドで、献身的にかがりの手を握りながら、かがりに告げた。
「ずっとかがりの側から離れない。かがりをいつも見付ける。卒業したら結婚して欲しい。俺を信じて欲しい」
好きだとも付き合って下さいとも言い出せなかったくせに、この時はすらすらと言葉が出た。
俺は謝りもしなかった。
自分がやったことから目を背けた。
保健センターの医師の前で、聖人のような顔を演じていた。
かがりは熱に浮かされた脳で、かくかくとうなづいた。
かがりが欲しい言葉を与えたんだということは分かった。
この先、かがりは俺から離れられないだろう、というほの暗い予感もあった。
保健センターの医師は年配の女医だった。
皺のない白衣を着て、かがりの脈を取りながら穏やかに微笑んでいた。彼女の視線はかがりの緊張を和らげた。
観客がいる前で、俺がどんなに優しくなれるか、かがりは理解した。
口に出して確かめられない行為が、かがりと俺を結びつけた。
言葉無しでわかり合えることと、言葉に出来ないこととは、違う。
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