4.十九才 大学二年生 初夏

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 夜が辛い。もうずっと辛い。  今日の昼間、ユキとかがりと三人で過ごした穏やかな空気を思い出して、余計に辛くなる。  かがりのアパートの部屋には小さなベッドの他に俺が持ち込んだ大きなマットレスがある。  狭い台所にはスロークッカーやブレンダーがある。これも俺が持ち込んだものだ。  俺は自分の部屋には帰らない。  かがりと二人での暮らしはままごとみたいだ。  現実味が薄いのに生活感に溢れている。  愛おしくて濃密で窒息してしまいそうになる。  母親からの電話に出た後には特に、かがりの部屋へ上がる外階段があまりに険しく感じる。  毎晩、かがりの脚をマッサージする。  足指から始まり、ふくらはぎから膝裏、太腿へとのぼっていく。  大腿部は細いが、内側にきれいに筋肉がついている。  どちらかといえば外腿をほぐすようにマッサージする。太腿の側面や前面は、踊るときに本来あまり使わない筋肉なのだそうだ。 「オフバランスで踊るときに、どれくらい脚を使っていいか分からないことがあるの。脚というか、骨盤の角度というのか」  かがりは脚を俺に預けたまま、そう話す。  かがりが、いかに自覚的に身体を使っているのか、知る度に驚く。  本能のままに踊っているように見えるのに。  いくつかマッサージ用のローションを試して、イランイランの香りのものを選んだ。  イランイランとベルガモット。 「このローションは口に入れても大丈夫なんだよ」  そうなの? とかがりが尋ねる。  そうだよ、と俺は答える。  自分の卑屈さに指先がざわめく。
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