4.十九才 大学二年生 初夏

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 毎晩、髪を乾かし合って、抱き合って、ついばむようなキスをして眠る。  おままごとの夫婦ごっこをしている。  俺が、試したいと言わなければ、かがりは安心しきった顔で眠る。  キスが深まりそうになると、かがりは肩を強ばらせる。  かがりは踊るときに肩に力を入れない。  腕を支えるのは体側の筋肉だ。肩甲骨まで使って柔らかく腕を動かす。  俺のキスはかがりに踊りを忘れさせてしまう。  がちがちに強ばって、恐怖で浅い呼吸をくり返す。  発汗している。  交感神経が急激に優位になる。  動物が天敵に出くわしたときの反応だ。  逃げるために。あるいは反撃するために。  俺はかがりの敵になりたいんじゃない。  眠るかがりの隣から抜け出して、台所に逃げる。  母親も時々夜中に台所に立っていた。  深夜に包丁を使っている母親の背に、声をかけることが出来なかった。  自分がいつか、かがりを殺してしまうんじゃないかと怖くなる。  運命だと思っている。  かがりのことが好きだ。受け入れて欲しい。  かがりの身体に拒絶される度にどす黒い感情に支配される。この感情に合う言葉を見付けるのが怖い。  はっきりと物事が見えるなんて恐ろしい。
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