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図書館の吹き抜けの下に立ち、目当ての人物を探す。階段を上りながら左右に視線を投げる。
誰も自分には視線を向けてこない。
そのことが心地よかった。
ここはサッカーのコートじゃない。グラウンドじゃない。
握りつぶしかけていたスマートフォンをバックパックに突っ込む。
ユキは三階の勉強席にいた。
吹き抜け側を向いて机に座り、何か書き物をしていた。古めかしいデザインの読書灯がユキの顔半分を照らしている。
ユキ、と彼を呼ぶのは、その響きが気に入っているから。線の細い中性的な顔立ちに似合うと思うから。
わざと吹き抜けを回り込んで反対側へ歩いた。
吹き抜けを挟んで対面からユキを眺めることにした。
閲覧席のソファに腰掛けると、向かい側の壁と手すりにひっかかるみたいに、ユキの顔が浮かび上がって見える。
今年も二軍なんでしょう、という母親の言葉を反すうする。
一年生のときはそれでもよかった。
まだ先があると思えた。
二年生になっても、突きつけられているのは、二軍のスタメンか一軍の控えかという事実だけ。
もう先がないように思える。一つ年を取るたびに自分の可能性が狭められていく。
背もたれのないソファの上で、寄っかかることも出来ず、座り直す。
膝の上に肘をつく。
医学部に入れると両親は本気で思っているんだろうか。それこそ裏口入学でもしなければ、絶対無理だ。
数学や理科なんて全く覚えてない。
金が解決してくれるんだろうか。
結局のところ、自分のサッカーの実力だって、両親の経済力に底上げされていただけなんじゃないか、と自虐的に考える。
視線の先にユキがいる。
こちらに気が付きもしない。なんだか悔しい。
ノートに目を落としたままで、ユキのまつげが、時折、読書灯の明かりを反射する。
まつげが金色になったり黒くなったりする。
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