1.十九才 大学二年生 春

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 正面にいるユキを眺める。メッセージを送ったのに反応らしきものがない。 「あいつ」  俺は苦笑する。  ユキのせいで母親のことを忘れられそうだ。  ユキは多分、スマートフォンをバッグに入れっぱなしなんだろう。外部と常に繋がっていたいタイプではないらしい。  俺はそのことにも好感を持った。  外部からの承認欲求ばかりの人間は嫌いだ。  立ち上がりかけて、思い直して通話をタップした。  呼び出し音が自分自身に響く。  気付けよ、と五メートルくらいの空間越しに、正面の白い顔に呼びかける。  母親もこんな思いで電話してくるんだろうか。  気が付いてくれるだろうか、出てくれるんだろうか。    ユキがびくっと身体を震わせた。座席の下に頭を突っ込んだ。おそらく足元に荷物があるのだ。  俺は通話を切った。  ユキは時限爆弾を持つみたいな手つきでスマートフォンを持ち上げると、眉をひそめた。  着信とメッセージを確認したらしい。  血の巡る音なんて聞こえないはずだけど。  次の瞬間、ユキの白い顔が耳までひと息に赤く塗り変わった。  風が吹き抜けるみたいに。音がしそうなほど。  首までもが赤い。  その首を巡らせて、ユキがこちらを見た。  やっと見た。  椅子を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がって、机に手をついた。
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