1.十九才 大学二年生 春

6/12
前へ
/94ページ
次へ
 ユキの目が見開かれて、潤んでいるように見える。  宝物を見付けたみたいな目で俺を見る。    自分が何を求めていたのか、はっきりした。  承認欲求ばかりの人間は大嫌いだ。努力もせず甘えているように見える。  俺は立ち上がる。ユキに微笑む。  ユキは口を開け、また閉じた。  ユキのまわりだけ酸素が薄くなったみたいな反応。  承認欲求にまみれているのは自分。  認められたいのに、認められない。  認められたいフィールドで認められない。    何かが足りない。でも甘えたくなんかない。  欲しいのは、俺のことを酸素みたいに求めてくれる存在。  俺が俺だというだけで、見つめてくれる目。  俺は右手を自分の胸の前に上げる。  その席で待っていろと、目と手でユキに合図する。  右手をさらに上げる。目線まで上げる。人差し指で狙いを定める。 「ユキ」  唇だけを動かす。  ユキがわずかに首をかしげる。  せわしなくまばたきする。  ユキは、俺の一挙手一投足を待っている。 「ユキ。待っていろ」  掲げた右手の人差し指で狙いを定める。  待っていろ。  ユキを撃ち抜いてやる。ユキの視線を独占してやる。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加