白く塗る

2/6
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
 ユキの耳がだんだんと赤く染まっていく。  俺が見つめていることに気が付いたのだ。  火照った横顔がなまめかしく感じられる。  ユキが目を伏せる。  きりんのような目、とかがりが表現した目とまつげ。  男に欲情するようになった理由を、その言い訳を、説明のつかない衝動が覆い隠していく。  じくじくと身体の芯が疼く。  すぐに必要だ。今すぐこちらを向いてほしい。  ユキが耳からイヤホンを取り外した。おもちゃのようなそれをキャンプテーブルの上に転がす。  ラップトップを閉じる、そのユキの右手首を俺は逃さなかった。 「あれ、誰?」  ユキが不思議そうな目で俺を見上げる。  男を組み敷くようになる日が来るとは、思わなかった。 「ユキの通話の相手」  ユキが口を開く。吐息が俺の唇をかすめる。 「あれは父の仕事相手なんだ。アリゾナの。なかなか必要な実験資材を送ってくれないから、僕が代理で交渉してる。英語は僕の方が得意だから」  ばさばさと落ちつきないまばたき。  風を起こしそうなきりんみたいな濃いまつげ。日焼けをしていない肌と薄い唇。 「女? 男?」  両手首を床に押しつける。  膝をユキの脚の間に割り入れる。  かがりには絶対にこんなことは出来ない。こんなことを言えない。  俺はユキの返事を待たなかった。  待てなかった。 「どっちだって気に入らない。ユキが俺を見てないのは気に入らない」  独占欲が強い人間なのだと、知らなかった。かがりに会うまでは。  俺が独占欲を剥き出しにすることを許したのはユキだ。そんな目で見るからだ。もの欲しそうな目で俺を見る。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!