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ユキの耳がだんだんと赤く染まっていく。
俺が見つめていることに気が付いたのだ。
火照った横顔がなまめかしく感じられる。
ユキが目を伏せる。
きりんのような目、とかがりが表現した目とまつげ。
男に欲情するようになった理由を、その言い訳を、説明のつかない衝動が覆い隠していく。
じくじくと身体の芯が疼く。
すぐに必要だ。今すぐこちらを向いてほしい。
ユキが耳からイヤホンを取り外した。おもちゃのようなそれをキャンプテーブルの上に転がす。
ラップトップを閉じる、そのユキの右手首を俺は逃さなかった。
「あれ、誰?」
ユキが不思議そうな目で俺を見上げる。
男を組み敷くようになる日が来るとは、思わなかった。
「ユキの通話の相手」
ユキが口を開く。吐息が俺の唇をかすめる。
「あれは父の仕事相手なんだ。アリゾナの。なかなか必要な実験資材を送ってくれないから、僕が代理で交渉してる。英語は僕の方が得意だから」
ばさばさと落ちつきないまばたき。
風を起こしそうなきりんみたいな濃いまつげ。日焼けをしていない肌と薄い唇。
「女? 男?」
両手首を床に押しつける。
膝をユキの脚の間に割り入れる。
かがりには絶対にこんなことは出来ない。こんなことを言えない。
俺はユキの返事を待たなかった。
待てなかった。
「どっちだって気に入らない。ユキが俺を見てないのは気に入らない」
独占欲が強い人間なのだと、知らなかった。かがりに会うまでは。
俺が独占欲を剥き出しにすることを許したのはユキだ。そんな目で見るからだ。もの欲しそうな目で俺を見る。
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