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回転木馬で追いかける
快楽の余韻を残したまま、ユキに寄りかかって、うとうとするのが好きだ。
行為の後で、ベッドの中で、おしゃべりをしたがる女の子のことを理解できないと思っていた。終わったら、その相手とさっさと離れたいとさえ思っていた。
浴室を出て、ユキの髪を乾かしてやるのが好きだ。
さらさらしていて、表面は乾いたように見えて内側がしっとりしている。
その感触を味わう。
ユキに俺の髪を乾かしてもらうのも好きだ。
ユキの指が俺の耳の後ろの髪を、優しくとかしていく感触も好きだ。
髪を乾かし終えてユキにもたれかかると、恥ずかしそうに微笑みながらユキが受け止めてくれる。
なぜ恥じらうような顔をするのだろうと思う。
その顔を確かめたくなる。
「ユキは俺のどこが好きなわけ?」
かがりには尋ねられないことを尋ねてみる。
「隼のどういうところ、とか、何が、好きかということ?」
火照ったような顔で、慎重にユキが尋ね返してくる。
俺はユキの肩に自分の頭を乗せる。
Tシャツから伸びた腕同士が触れ合う。ユキの腕は白く、俺の腕は日焼けしている。
「七才の頃だったんだけど、住んでいた町に移動遊園地がやって来たんだ」
ユキが話し始める。ゆっくりと穏やかに上がったり下がったりする声音が心地いい。
ずいぶんと遡った年齢から話が始まったなと思う。
俺は想像する。
七才のユキ。
さらさらした黒い髪でぶかぶかのバギージーンスを履かされて、手の中にクオーター硬貨を二枚握りしめている。
ユキが育ったアメリカの中西部の田舎町。
住宅街が果てる場所にある荒れた草地。
昨日までただのさみしい草地だった場所がお祭り会場に変わっている。
絵本の中の世界みたいだけど、図書館で借りる絵本の中にアジア人は描かれていない。
そのことに気が付き始めている。
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