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「ユキはこっち側の世界に戻ってきたんだろう?」
そうだね、とユキがささやく。
その声がユキの身体を通しても聞こえてくる。
「馬は? 戻ってきた?」
戻ってきたよ、とユキが言った。
「馬は僕の方は見ていなかった。僕はずっと馬を見ていた。だから馬は僕の存在には気が付いていなかったかもしれない。馬は、自分はひとりぼっちだと思ったかもしれない」
でもそうじゃない、と俺は思う。
「僕が隼のどういうところを好きかというとね」
ユキが耳を赤くしながら告白する。
「こうやって僕の話を最後まで聞いてくれるところだよ。僕が隼のことをどれくらい好きか、どれくらい特別に思っているかということは、とても簡潔には言い表せないんだ」
俺はユキの手首を取った。
両手首をつかみ、押し倒すようにユキを床に横たえた。
あるかないかの音をたてて、ユキの頭が床に触れた。ユキの一対の目が俺を見上げている。
ユキの目の中に俺が映っている。
ユキの脚の間に自分の膝を割り入れる。
「ユキは俺をずっと見続けるってこと?」
届かない憧れのように、ずっと俺を追い続けるつもりなんだろうか。
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