回転木馬で追いかける

4/5
前へ
/94ページ
次へ
「ユキはこっち側の世界に戻ってきたんだろう?」  そうだね、とユキがささやく。  その声がユキの身体を通しても聞こえてくる。 「馬は? 戻ってきた?」  戻ってきたよ、とユキが言った。 「馬は僕の方は見ていなかった。僕はずっと馬を見ていた。だから馬は僕の存在には気が付いていなかったかもしれない。馬は、自分はひとりぼっちだと思ったかもしれない」  でもそうじゃない、と俺は思う。 「僕が隼のどういうところを好きかというとね」  ユキが耳を赤くしながら告白する。 「こうやって僕の話を最後まで聞いてくれるところだよ。僕が隼のことをどれくらい好きか、どれくらい特別に思っているかということは、とても簡潔には言い表せないんだ」  俺はユキの手首を取った。  両手首をつかみ、押し倒すようにユキを床に横たえた。  あるかないかの音をたてて、ユキの頭が床に触れた。ユキの一対の目が俺を見上げている。  ユキの目の中に俺が映っている。  ユキの脚の間に自分の膝を割り入れる。 「ユキは俺をずっと見続けるってこと?」  届かない憧れのように、ずっと俺を追い続けるつもりなんだろうか。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加