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くノ一咲耶
青く澄んだ空にぽっかりと白い月が浮かんで見えた。今日は妙に大きく感じる。
こんなにも昼間の月って大きかったのだろうか。
窓から差し込む真夏の日差しがまぶしい。
夏休み前、最後の授業だというのにヤケに教室の中が騒々しい。
ボクが副担任として任されている魔界野小学校六年Z組の教室は異様な雰囲気だ。
なぜか、教室の一角に甲賀の女忍者が陣取っていた。小学生に混ざって、ひとりだけ女子高生だ。しかもただの女子高生ではない。忍者のコスプレをしていた。
今朝早く、ボクの屋敷へ押しかけてきた女忍者だ。
名前は咲耶と名乗っていた。
しかも彼女はさっきから化粧直しに余念がない。ほんの少し前まで艶やかな水着を纏って、男子生徒の前でライブパフォーマンスをしていた。男子生徒らはその咲耶を熱狂的に応援していた。
しかしひと通りライブパフォーマンスをして休憩時間になったようだ。
それにしてもあれだけ派手に激しいライブパフォーマンスをしても息一つ乱さないでいた。どうやら女忍者だけあって身体能力は並ではないらしい。だが感心しているワケにもいかないだろう。
「うッううゥ……」
ボクは呻き声を上げるだけで、すっかり困り果ててしまった。さすがに授業中に化粧直しをするのは目に余る行為だ。注意しなければならないだろう。
「ちょっと、よろしくて、藤丸先生!」
しかし注意をする前に最前列の龍宮寺家のご令嬢が手を上げてボクを呼んだ。
彼女は、とびきりの美少女と言って差し支えないだろう。しかしなにかと問題を起こすので厄介なご令嬢だ。
「あッ、ハイ、なんでしょうか。姫?」
ボクはできるだけ優しく龍宮寺姫香を指名した。
彼女は日本屈指の龍宮寺財閥のご令嬢だ。
もちろんわが学園ではスクールカーストのトップに君臨していた。
学校じゅうのみんなが、彼女のことを『姫』と呼んで敬っていた。
気をつけないと彼女に逆らえば校長といえども、どこか辺鄙な過疎地に飛ばされるらしい。ボクのような一介の教師など歯牙にもかけないだろう。
もちろんボクも腫れ物に触るように丁重に扱っていた。
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