第6章 サインは出してません!

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目を逸らしてガードの腕を上げようかと迷うが、全身が硬直して動けない。 Mr.Dの顔が迫ってきて思わず目を瞑った。 不意打ちとはこういうことを指すのかと微動だにしないで我慢した。 その顔が離れるとハンカチで口を拭きたい衝動に駆られた。 バッグからハンカチを出す手間がかかるのなら、ジャケットの袖口で唇を拭きたい、ゴシゴシと! それは無理と分かり、横を向いて下唇を噛んだ。 M r.Dは何事もなかったかのように姿勢を元に戻してシートベルトを装着するとエンジンをかけた。 「駅まで送ります」 車が動き出してホッとした。 私が押し黙っていることを気にする様子もなく、Mr.Dは時折、ハミングをしながら運転していた。
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