探し物

「もう！見つかるまで帰れないのよ！しっかり探して！」

　田崎先輩はイライラを隠し切れない、フロア中に響く声で叫ぶ。

「使ったら元の場所に戻す！小学生でも知っている事よ！」

　いや、知っていてもついうっかりってこともあるでしょう…。

　時計は１９時２３分をさしている。
　今日は定時退社日。
　定時から１時間近く、我が社が入るこのビルの３階１フロアを女性社員全員である探し物をしている。

　女子更衣室の鍵だ。

　更衣室は常に施錠し、使用するたび鍵を開ける規則になっている。
　しかし本日の就業中に施錠されていない事が発覚し、鍵も保管場所に戻されていないことがわかった。
　各自のロッカーに鍵はついているが、ほとんどの人は面倒臭がって施錠していない。幸運にも所持品の紛失は無かったのだが……。

　各自のロッカー、カバンの中、引き出しの中、机の下、ゴミ箱の中……。
　だだっ広いフロアを皆で這いつくばって探す中を、監視するかのように歩き回る田崎先輩。

　―――先輩も探してくれてもいいのに。