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「ちょ、ちょっと待ってよ! あの部屋の物がないと暮らしていけないわ! 引っ越し先が見つかるまではいさせてよ!」 「ハァッ? お前が別れたいって言ったんだから、つべこべ言わずに鍵を出せっ!」 「ひどいっ、そんな急に......」 「急なのはお前の方じゃないかっ!」 男性は怒鳴りながら、鍵を催促するように手をひらひらと振る。 それはまるで女性を挑発するかのようだった。 男の様子を見て頭にきたのだろう。 気の強そうな女は声を荒げて言った。 「わかったわよっ! 返せばいいんでしょう、返せばっ!」 女は小さなブランドバッグから鍵を取り出すと、 投げつけるように机の上に放り投げた。 その瞬間、ガチャッという金属音が響く。 「フンッ、お前はどうしようもないあばずれだな! そんなんじゃ誰からも可愛がってもらえないぞ! 俺と別れた事を後悔しても知らないからな!」 男は鍵をポケットにしまいながら言うと、続けた。 「金は明日中に振り込めよっ! まったく可愛げのない女なんか愛人にするもんじゃないな! この恩知らずめっ!」 男性は吐き捨てるように言うと、会計伝票を持ってレジへと向かった。 そこで慌てて卓也がレジへ向かう。 周りにいた客は、息をひそめて騒動の一部始終を見守っていた。 「ありがとうございました」 レジ音と卓也の声で、男性が店を出た事が分かった。 その瞬間、凍り付いたような空気に包まれていた店内が、 いつも通りの雰囲気を取り戻し始める。
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