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華子の育った家庭環境は複雑だった。
小さい頃、父親が突然華子と母親を捨てて家を出て行った。
その後、母は華子を連れて実家へ帰る。
母・弘子の実家は、いくつもの料亭を経営する会社を運営し、
かなり裕福だったが、
祖父母はかなり厳格な人だった。
しかし華子から見ると、祖父母は母・弘子には甘いように感じた。
母・弘子は一緒に暮らしてはいたが、
祖父母の会社の役員に名を連ねており、
たまに事務所に顔を出すだけでそこから給料を得ていた。
弘子はその金で、何かと理由をつけては出歩いていた。
華子の世話は、全て祖母やお手伝いさんに任せて
弘子はいつも遊び歩いている。
代わりに華子の躾けは、全て厳しい祖母がしていた。
これは華子が大人になって気づいた事だが、
母・弘子は常に誰かと恋愛をしていないと駄目になってしまう人だった。
いわゆる恋愛依存症というものだろうか?
とにかく弘子の意識は、娘の華子より異性へと向いていた。
華子は子供心に、そんな母の様子を感じ取っていた。
その時、華子の頭の中には、
当時、友達や友達の母親から言われた言葉がこだまする。
『華子ちゃん、パパいないの? それは可哀想ね~!』
『華子ちゃんの父親参観には一体誰が来るの?』
『昨日華子ちゃんのお母さんが男の人と一緒にいるところを見たんだけれど、もしかして、あの人新しいお父さん?』
『華子ちゃんのママって再婚するの? 実はね、昨日駅前で華子ちゃんのママが男の人と手を繋いでいるのを、おばちゃん見たのよ!』
その時、華子は小学生時代に戻っていた。
『ママが手を繋いでいた男の人って誰なの?』
『ママは誰と旅行に行っているの?』
『ママは華子の事が好きじゃないの?』
『ママは華子の事をいらないって思っているの?』
幼い頃何度も何度も自分に問いかけた言葉が、
ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
そして、さらに重森に言われた言葉が浮かんできた。
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