3

2/12

3680人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
気が動転していた華子は、 とりあえず落ち着こうと、目の前の机をじっと見続ける。 しかし手の震えはまだ止まらない。 震えは手だけではなく、身体全体にまで広がっていた。 早春のこの時期、夜はまだ肌寒い。 華子はコートも着ずにホテルを飛び出したので、 身に着けているのは薄地のワンピースだけだった。 急に襲って来た寒気に、華子は両腕を抱え込むようにした。 それに気づいた陸が、ハンガーにかかっていた自分のジャケットを取って 華子に掛けてやる。 その瞬間、華子はホッと息を吐いた。 そこへ、卓也が飲み物を二つ持って来た。 入れたての温かいコーヒーだ。 この店は昼間はカフェなので、 夜でもコーヒーはすぐに準備できる。 「ありがとう」 そう言って陸がトレーを受け取る。 卓也は心配そうな表情のまま、フロアへ戻って行った。 「温かいコーヒーだ」 華子は何も言わずに、前に差し出されたカップをじっと見つめてから、 震える両手でその温かいカップを包み込んだ。 その瞬間、手のひらにじんわりと温かさが広がりホッとする。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3680人が本棚に入れています
本棚に追加