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気が動転していた華子は、
とりあえず落ち着こうと、目の前の机をじっと見続ける。
しかし手の震えはまだ止まらない。
震えは手だけではなく、身体全体にまで広がっていた。
早春のこの時期、夜はまだ肌寒い。
華子はコートも着ずにホテルを飛び出したので、
身に着けているのは薄地のワンピースだけだった。
急に襲って来た寒気に、華子は両腕を抱え込むようにした。
それに気づいた陸が、ハンガーにかかっていた自分のジャケットを取って
華子に掛けてやる。
その瞬間、華子はホッと息を吐いた。
そこへ、卓也が飲み物を二つ持って来た。
入れたての温かいコーヒーだ。
この店は昼間はカフェなので、
夜でもコーヒーはすぐに準備できる。
「ありがとう」
そう言って陸がトレーを受け取る。
卓也は心配そうな表情のまま、フロアへ戻って行った。
「温かいコーヒーだ」
華子は何も言わずに、前に差し出されたカップをじっと見つめてから、
震える両手でその温かいカップを包み込んだ。
その瞬間、手のひらにじんわりと温かさが広がりホッとする。
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