22

17/17

3679人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
最近は、シルバー世代のカフェ店員も徐々に増えているようだが、 当時はまだ珍しく、 70代のカフェ店員がいるらしいと、たまたまテレビ局が聞きつけて 取材を申し込んできた事もあった。 陸が取材を許可し、睦子は『シルバー世代の再就職特集』で、 一日密着の取材を受けた事もあるそうだ。 たまたまテレビを見ていた知人から、沢山の連絡が来たと言った。 「テレビの効果ってすごいのよ...」 睦子はしみじみと言う。 そして、テレビの放映以後、この店には高齢者の客が徐々に増え始めた。 睦子のテレビ出演がきっかけとなり、 この店に新たな客層を呼び込んだのだ。 「あなたは陸さんの婚約者なんですってね! おめでとう! 陸さんならきっと素敵な旦那様になるわ! だってね、あの人私の夫の若い時にとても良く似ているのよ! ああいう人は、女を幸せにするわ! 私が保証する! だから、絶対に手放しちゃ駄目よ!」 睦子はそう言って笑った。 その優しい笑顔には、様々な経験や苦労を経た女性だけが持つ、特別の優しさが込められていた。とてもいい笑顔だ。 華子は、自分もこんな歳の取り方をしたい...こんな笑顔になりたい... そんな風に思った。 仕事をしに来ているのに、 こんなに楽しく、そして勉強になる時間を過ごしていていいのだろうか? そのくらい、何のストレスもなく一日があっという間に過ぎていった。 華子は日に日に、この職場の事が大好きになっている自分に気づいた。 そうこうしているうちに、午後四時になった。 客の数もまばらだ。 そろそろ閉店準備を少しずつ開始する。 その時、新たな客が一人入って来た。 華子はドアの方へ向かい、 「いらっしゃいませ」 と声をかける。 そしての客の顔を見て、思わず驚いていた。 なぜなら、そこにはまた重森がいたからだ。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3679人が本棚に入れています
本棚に追加