3679人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
最近は、シルバー世代のカフェ店員も徐々に増えているようだが、
当時はまだ珍しく、
70代のカフェ店員がいるらしいと、たまたまテレビ局が聞きつけて
取材を申し込んできた事もあった。
陸が取材を許可し、睦子は『シルバー世代の再就職特集』で、
一日密着の取材を受けた事もあるそうだ。
たまたまテレビを見ていた知人から、沢山の連絡が来たと言った。
「テレビの効果ってすごいのよ...」
睦子はしみじみと言う。
そして、テレビの放映以後、この店には高齢者の客が徐々に増え始めた。
睦子のテレビ出演がきっかけとなり、
この店に新たな客層を呼び込んだのだ。
「あなたは陸さんの婚約者なんですってね! おめでとう! 陸さんならきっと素敵な旦那様になるわ! だってね、あの人私の夫の若い時にとても良く似ているのよ! ああいう人は、女を幸せにするわ! 私が保証する! だから、絶対に手放しちゃ駄目よ!」
睦子はそう言って笑った。
その優しい笑顔には、様々な経験や苦労を経た女性だけが持つ、特別の優しさが込められていた。とてもいい笑顔だ。
華子は、自分もこんな歳の取り方をしたい...こんな笑顔になりたい...
そんな風に思った。
仕事をしに来ているのに、
こんなに楽しく、そして勉強になる時間を過ごしていていいのだろうか?
そのくらい、何のストレスもなく一日があっという間に過ぎていった。
華子は日に日に、この職場の事が大好きになっている自分に気づいた。
そうこうしているうちに、午後四時になった。
客の数もまばらだ。
そろそろ閉店準備を少しずつ開始する。
その時、新たな客が一人入って来た。
華子はドアの方へ向かい、
「いらっしゃいませ」
と声をかける。
そしての客の顔を見て、思わず驚いていた。
なぜなら、そこにはまた重森がいたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!