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「そんなに驚いた顔をしなくてもいいだろう? 四年も付き合っていた仲なんだぜ...」 重森は何の気なしにそう言った。 「別に驚いてないわ...」 「ハハッ、君は昔から嘘が下手だな...」 重森は懐かしそうな顔をして言った。 そんな重森に対し、華子は無性に腹が立つ。 自分を手酷く振っておいて、何もなかったかのように会いに来る。 なんて無神経な男なんだろう。 しかし重森は、華子がこの店へ来る前からの常連客だ。 華子の都合で追い出す訳にはいかない。 彼はれっきとした客なのだ。 そう思うと、華子はぐっと怒りをこらえながら言った。 「ご注文はお決まりですか?」 「うん、ブレンドのMを」 「かしこまりました...」 そう言って、華子は横にいた野村にブレンドのMをオーダーした。 そして重森からカードを受け取ると、 さっと会計を済ませる。 重森にレシートを渡す際、華子の左手の指輪がキラリと光った。 その指輪を見て重森は言った。 「新しいオトコが出来たのか?」 華子はその問いに何と答えようか一瞬迷ったが、 こういう場合、はっきり言った方が効果的かもしれない。 そう思った華子は、 「ええ、婚約したの」 と答えた。 華子の口から『婚約』という言葉を聞いた重森は、一瞬怯んだ。 男が出来ただろうとは思っていたが、 こうもあっさり、華子が他の男のものになっているとは、 信じたくもなかった。 あの当時、華子は重森と結婚する事だけを夢見ていた。 そんな重森にぞっこんの華子が、 他の男と婚約までしているという。 どう考えても現実的に思えなかった。
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