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『答えなくちゃ!』
華子はそう思うと口を開いた。
「そうね、理由があるとすれば、自暴自棄ってやつかな......」
「愛人をやめたら自暴自棄? そんなもんやめて正解だろう?」
「あら、なんで私が愛人をやめた事を知っているの?」
そこで華子は気づいた。
この男はこの店の従業員なのだ。
だから、先程の野崎とのやり取りを聞いていたのだ。
「フフッ、全部聞かれちゃったのね。そうね、愛人はやめて正解だったわ」
華子はそう言って淋しそうに笑う。
「帰る所はあるのか?」
「えっ?」
陸から意外な質問が来たので、華子は思わず声を出した。
「だから、帰る場所はあるのかって聞いてるんだ」
「そんなのある訳ないじゃない」
華子は力なくそう言った。
「実家は?」
「実家は駄目!」
「地方なのか?」
「ううん、都内よ。でも駄目なの......」
陸は華子の言葉を聞いて、
何か帰れない事情があるのだろうと察した。
一方、華子は今、
自分が過去最大級のみじめな状況にいる事に気づいてしまう。
そして、思わず泣きそうになるがなんとかこらえる。
泣いている姿を、他人には見られたくない。
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