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「慶太さんはね、それでも弘子の事を許すつもりでいたのよ。だって子供が生まれたばかりでしょう? 慶太さんは華子の為なら我慢しようって思ったの。だから、浮気の事は忘れるよう努力するから、もう一度やり直そう...そう慶太さんは弘子に言ったのよ。でもね、弘子はそれを突っぱねたの。そして、離婚した後は、もう華子に会わないでと言ったのよ。すぐに再婚して華子には新しい父親が出来るから、もう関わらないでと。慶太さんが関わると、華子が混乱するからって...そう言ったのよ」 菊子は神妙な面持ちでそう言った。 「えっ? でも、お母さんは再婚しなかったわよね?」 「そう...その浮気相手は結局、弘子に対して本気じゃなかったのね...」 菊子は全部話し終えると少しホッとしたのか、 弱々しい笑みを浮かべて華子の方を向いた。 そこで宗太郎が口を開く。 「あいつは馬鹿なんだよ...男が自分を見れば、すぐに惚れると思い込んでいる......男ってのはなぁ...大切に思っている相手に対しては誠実な態度をとるものなんだよ...そこの所が分かっていないんだ! だから、50を過ぎた今でも男に騙され続けているんだ......困ったもんだ......」 菊子も言った。 「一番誠実なのは、慶太さんだったのよ...あの時慶太さんとやり直していたら、あの子もきっとこんな事にはならなかったのかもしれない......その事にあの子自身気づいているから、認めたくなくて意地ばかり張って...本当に馬鹿な子......」 華子は呆然としていた。 今まで母は、華子の父親は母と華子を捨てて 家を出て行った... そう聞いていたからだ。 祖父母からの話を聞く限り、父に悪い所は一つも見当たらない。 その時、華子は今まで信じていたものが、ガラガラと音を立てて 崩れていくのを感じた。 華子はもう一度アルバムに貼ってある父の写真を見る。 父が華子を見つめる瞳には、愛情が溢れていた。 『私はお父さんに愛されていたのね...』 そう思った瞬間、華子の頬を涙が伝った。
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