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華子は思わず両手で顔を塞ぐと、 肩を震わせ嗚咽を漏らして、泣き始めた。 華子の声は、なんともいえない切なさに溢れている。 その時隣に座っていた陸が、華子を優しく包み込むように 抱き締めた。 陸の力強い腕の感触は、 幼い頃、父が華子を抱いてくれた時の腕の感触に 似ているような気がした。 華子はしばらくの間、 陸に抱き締められながら泣き続けた。 そんな華子を、祖父母は涙を浮かべながら ただただじっと見守るしかなかった。 華子が漸く落ち着くと、 菊子が父・慶太に関しての知っている情報を、 全て陸へ教えてくれた。 弘子と別れた慶太は、北海道の空知地方へ行くと言っていたらしい。 そこに慶太の知人がいて、何かの事業をやっているとの事だった。 そしてしばらくは、その仕事を手伝うような事を言っていたと 話してくれた。 その後、祖母がアップルパイとコーヒーを持って来て、 四人は食後のデザートを楽しむ。 その最中も、陸は宗太郎と今後の事について色々と話し合っていた。 デザートを終え、 そろそろ二人が帰る時刻が近づいて来ると、 宗太郎が言った。 「陸君、華子の事をどうかよろしくお願いいたします」 「きちんとお預かりいたします。どうぞご安心下さい」 陸もそう言って頭を下げた。 そして二人は、三船家を後にした。 帰りのタクシーの中で、華子は静かだった。 陸はチラッと華子の様子を見て言った。 「大丈夫か?」 「うん...平気よ.........りく...」 「なんだ?」 「今日は一緒に来てくれてありがとう...」 「ああ...俺もお二人にお会い出来て良かったよ...」 「ん...」 華子はそう言うと、左手を陸の右手に絡める。 甘えるような華子の手を、陸はギュッと握り返す。 陸の手のひらの温かさを感じ、華子はホッとした気持ちになる。 そして華子は手を繋いだまま頭を陸の肩にもたれかけると、 そのまま窓の外に流れゆく景色を、じっと見つめ続けた。
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